第14話 し、嫉妬してくれたんですか……?

 テスト1週間前。放課後、俺と有沙、深、ひまりは教室でテスト勉強会をしていた。


 ひまりと深が楽しそうに勉強している中、俺は有沙に英語を教えてもらっていた。


「授業を聞いていたらわかると思うのですが、まさか寝ているとか?」


 俺の英語レベルはどうやら有沙からしてかなり酷いらしい。ちゃんと起きて授業を受けているのだが、寝ていると思われてしまった。


「寝てないよ。集中して聞いてる」


「疑わしいですけど私が1から教えます。今回の期末考査の英語は私に勝てるよう頑張りましょう」


 それはいくらなんでも無理な気がする。有沙に勝とうとすると英語は90点代後半ぐらいの点数が必要となる。


 そんな点数今まで取ってきたことがないのに英語が苦手な俺が取れるのだろうか。


 けど、まだテストまで1週間もある。ここで苦手な英語を集中的にやっていけばもしかしたら無理だと思うこともできるかもしれない。


 英語以外の教科は今のところ自信あるし取り敢えず、テスト期間中は英語を徹底的ににやろう。


「そうだな、頑張るよ」


「はい、一緒にテスト勉強頑張りましょう」





***




 テスト返却日。得意な数学や日本史はいつも通りいい点数が取れた。そして次は英語のテストが返ってくる。


「天野」


 名前を呼ばれてテストを取りに行き、席に着くまで何となく点数を見ないようにした。席に着くと深呼吸し、点数を見た。


(おぉ、92点!)


 過去最高点を取ることができた。有沙が何点取れたかはわからないが、個人的には嬉しい点数だ。


 有沙のおかげでいい点数が取ることができた。有沙には早く報告してありがとうとお礼が言いたい。


 放課後になり、有沙を教室まで迎えに行こうとすると深とひまりが俺のところへ来た。


「ちっひろ、クリスマスイブの予定ある?」


「いや、特に予定はないよ」


 そうか、テスト勉強ですっかり忘れていたが明日からは短縮授業でそのあとはもう冬休みか。


 クリスマスイブはバイトを入れていないし、誰かと約束しているわけでもない。


「ならさ千紘の家でクリスマスパーティーしない? 私と深の家はちょーとやりにくくてさ」


 親が厳しいから友達を家に呼べないとかそういう理由なのだろうか。


「わかった」


「やったー! なら、あーちゃんも誘ってみよ」


「そうだな。俺から誘ってみる」


「うん、よろしくー。じゃ、また明日ね」


「あぁ……」


 ひまりは深と手を繋ぎ仲良さそうに教室を出ていく。


 付き合うというのはああいう感じなのだろうか。俺が有沙に手を繋いだらどんな反応をしてくれるのだろうか。


(何、考えてるんだ……いくら嘘の恋人でもそれは名前だけだ)


 教室を出て有沙のクラスへ行くと彼女はいなかった。近くに初華がいたのでどこに行ったのか聞いてみることにした。


「初華、有沙がどこに行ったか知ってるか?」


「有沙ならさっき加藤くんとどっか行ったよ」


「加藤? 男か?」


 有沙が誰といようが今まで何も思わなかったが、相手が男であるかが気になった。


「そだよ。告白って雰囲気じゃなかったし……なんだろうね」


「ありがと、探してみるわ」


 もし、前みたいに無理やり告白してくる奴だったら心配だ。


 今は彼女の彼氏なんだからいざというときに守れなかったら彼氏失格だ。


 彼女がいそうなところを近いところから探してみると図書館から出てくる有沙の姿を見かけた。


「ありがとうございます」

「いや、見つかって良かったよ」


 加藤という男子と楽しそうに話す彼女を見て俺はモヤモヤした。


 嘘の彼氏であるが他の男子と仲良くしているのを見ていると不思議な気持ちになる。


(俺は、有沙のこと……どう思ってるんだ?)


「あっ、千紘! どうしたのですか?」


 彼女は、俺を見つけて本を持って嬉しそうに駆け寄ってきた。


「教室にいないから有沙のこと探してたんだ」


「わ、私のことを? ふふっ、探しに来てくれてありがとうございます」


 俺に探してもらっていたことが嬉しかったのか両手に頬を当てて彼女は小さく笑っていた。


「さっき誰かといたよな?」


「はい、加藤くんといました。本を探していて図書委員の加藤くんに協力してもらってました」


「そ、そうなのか……」


 少しだけホッとした自分がいた。もしかしたら仲が良くて……って、俺はなんでホッとしたんだろうか。


「どうかしました?」


「……有沙が他の男の人といたらモヤッとしたんだけど今さっきなくなったんだ」


「も、モヤッ……」


 彼女は俺の言葉を聞いて顔を赤くしていた。そして彼女は俺の服の袖をぎゅっと握ってきた。


「し、嫉妬してくれたんですか……?」


「っ……し、してない……」


「ふふっ、今の千紘の顔、可愛いです!」


「み、見なくていい!」


 恥ずかしくて見せられないと思い、俺は早歩きで有沙を置いて教室へ戻る。


「ま、待ってください千紘!」


 彼女がそう言って追いかけて俺の横に並んだ。


「お、怒ってますか?」


「別に怒ってないけど」


「それなら良かったです。今の千紘の彼女は私です。なので心配なさらなくても私は千紘のことしか見てませんので」


 そう言って彼女は俺の腕に抱きつき、真っ直ぐと見つめてきた。


「お、俺も───」

「おぉ、千紘と月島さん」


 部活動で残っていた深は、俺と有沙がいるのを見かけて声をかけてきた。


「もしかしてこれから放課後デートでもする感じ?」


 有沙が俺の腕に抱きついているのを見て深がそう言うと有沙の顔は真っ赤になった。


「し、しません……よ。そうですよね? 千紘」


「あぁ、うん。深は、部活か?」


「そうそう、ボランティア部。そうだ、月島さんも良かったら入る?」


 深が有沙を勧誘するが、彼女は少し考えてから口を開いた。


「すみません、部活は親が許してなくて」


「そっか、それは残念だ。けど、入りたくなったらいつでも歓迎するよ。なんせ部員が少ないからね。じゃあ、また明日」


 そう言って深は部室へ行ってしまった。


「そうだ。クリスマスイブの日、俺の家で深とひまりでクリスマスパーティーするつもりなんだけど有沙も来るか?」


 聞くのをすっかり忘れており、どうかと尋ねると彼女は、首を横に振った。


「すみません、行きたいところですが、その日は予定があるので行けません」


「そっか……午後からやるつもりだから来れそうだったら連絡してもいいからな」


「はい……」


 さっきまで笑顔でいた有沙だが部活の話をしてから様子がおかしい。


「そうだ、英語の点数、有沙のおかげで92だった。ありがとな」


「やりましたね。ちなみに私は97です。まだまだですね」


 そう言って笑った彼女の笑顔に気付いたら俺は見とれていた。








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