第36話 俺の前だけだらぁ~
ひまりと深が借りてきてくれて水中バレーは始まった。
4人で円になって取り敢えずは10回パスを連続でやることになった。
「ひまり、本気でやるなよ。試合じゃないからな」
「わかってるって。元バレー部っ言っても水中は難しいし」
ひまりは中学の頃バレー部だった。キャプテンに選ばれるほど上手かったらしく、バレーは彼女には勝てない。
「じゃ、月島さんから行こっか」
深は、有沙にビーチバレーボールを渡して彼女からスタートすることになった。
順番は特に決めず取れる人が取るということになった。
「では、そーれ」
誰に向けて投げたのかわからないが、俺が取れそうだったので手を出してアンダーハンドパスでひまりの方へ打ち返した。
「ナイス、千紘! 次、深!」
「はいはい、取るよ」
ラリー10回は簡単にクリアしそのまま続けようとしたその時、ボールを取ろうと後ろに下がった有沙がバランスを崩しそうになった。
「っ、大丈夫か?」
近くにいたので彼女の手を咄嗟に掴み、自分の方へと抱き寄せた。
「ち、千紘……あ、ありがとうございます……」
「足つったりしてないか? どこか痛めたらしてないか?」
俺は心配のあまり早口で彼女に大丈夫かと尋ねた。すると、有沙は顔を真っ赤にした。
「だ、大丈夫です! 千紘、心配しすぎです!」
(良かった……)
ほっとしているとひまりと深がこちらへ寄ってきた。
「あーちゃん、大丈夫?」
「大丈夫ですよ」
「良かったぁ。千紘の助けに来る素早さ異常なくらい速くてビックリしたよ」
「有沙に何かあったら助けると決めてるからな」
ひまりにそう言うと有沙が俺の名前を小さな声で呼んでいた。
「千紘、月島さんが茹でタコみたいに凄い状態になってるけど……」
深に言われて気付いたが、彼女は顔を耳も真っ赤だった。
「ご、ごめん、強く抱きしめて……」
「い、いえ、嫌ではなかったので全然……そう、全然良いのです!」
慌てて離れたが、彼女は俺の手をぎゅっと握ってきた。
「スマホがあったら撮りたかったなぁ~」
ひまりがそう呟くと有沙は首を横に振った。
「と、撮らなくていいです!」
「えぇ~可愛いのに。水中バレーはまた後でやるとしてスライダー乗りに行かない?」
「スライダー!! の、乗りたいです!」
彼女はプールに遊びに来ること事態初めてらしく、ここに来てから一番気になっていたのがスライダーらしい。
シングルと後は何人かで乗るスライダーがあり、最初は2人で乗ることになった。
話し合いの結果、俺は有沙と乗ることになった。ひまりが有沙と乗りたいと言っていたが、それは2回目で。
「有沙、髪ほどけそう……」
「ほんとですか?」
階段を登っていると前に立っていた彼女の髪の毛が目に入り、俺は髪がほどけそうなことに気づいた。
「うん。結おうか?」
「で、できるのですか?」
「まぁ、多分。三つ編みでいいんだよな?」
「あっ、はい」
「じゃあ、少しだけ浮き輪を持っていてくれ」
「はい、わかりました……」
彼女に浮き輪を持ってもらい、俺は髪をほどいた。
「な、なんだかやってもらうと照れますね……」
髪を結っていると有沙が前を向いたまま話した。
「有沙の髪はサラサラだな」
「そ、そうですか? モフモフなら家に帰ったらですよ」
「モフモフ……あー、頭を撫でるってことだな」
「そうです、モフモフです。私も千紘の頭撫でてあげますからね。膝枕つきで」
俺と有沙がこうして話していると後ろで並んでいた深とひまりのコソコソ話が聞こえてきた。
「なんかもう2人の世界に入ってるね」
「そうだな」
(ガッツリ、聞こえてますけど……)
「ん、できたよ」
「へへっ、千紘に結ってもらいました。また頼んでもいいですか?」
彼女の表情はふにゃりと緩み、嬉しそうに尋ねてきた。
「いつでもいいよ」
「ふふっ、では、またお願いしますね」
***
昼食を食べた後、ひまりと深はスライダーに行ってしまった。
俺と有沙はというと先ほど水中バレーをしていたところでのんびりとしていた。
「だらぁ~。スライダーやバレーは楽しかったですがやはりこういう何もしないのがいいですね」
彼女は浮き輪を使い、ぷか~んと浮かんでいた。俺は浮き輪は使わず彼女に何かあった時、いつでも助けられるよう側にいた。
「その前から気になってたんだけど俺の前だけしかそのだらぁ~ってやつをしないけど何か理由があるのか?」
もはや俺の前での口癖みたいになってきている。最初はだらぁ~の意味がわからなかったが、最近は何となくわかってきた。
「だらぁ~は基本千紘の前でしかしませんよ。こんな恥ずかしいところをひまりさんや奥村くんには見せられません」
なぜ、どやぁみたいな表情をして言っているのかわからないがつまりその恥ずかしいところは俺には見られてもいいということだろうか。
「有沙は将来1人にしたら自堕落な生活を送っていそうで怖いな。俺が夕食作ったりする前はどうやって過ごしていたんだ?」
彼女と今みたいに夕食を食べる前は、スーパーで作られたものを食べていると聞いた。
けど、どんな過ごした方をしていたかはまだ聞いたことがなかった。
「そうですね。休日は、遅い時間に起きて、気付いたらいつもお昼頃でした。そこから外に出掛けようと考えるのですが、いつもめんどくさいなと思ってしまい、結局夕方まで何もせずに終わってしまいました」
ニコニコと笑顔で話すが、物凄く心配になる生活を送ってきたようだ。
ここ最近は、俺が朝食を作ると起きてきてくれるのでそんなことはないのだろう。
「そうなんだ。じゃあ、これから休日に起きてこなかったら起こしに行こうかな」
「お、起こしに……そ、それはありですね!」
(えっ、あぁ、ありなんだ……冗談で言ってみたんだけど)
「そうなると千紘にも私の家の鍵を渡しておいた方が良いですね」
「鍵を渡すのはどうかと……寝ている間に家に入ってくるとか嫌だろ?」
「いえ、別に嫌ではありませんよ?」
「そこはちょっと警戒してほしかった……」
話し合いの結果。鍵は渡さずインターフォンで起こしに行くことに決まった。
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