第8話 女子会

「お泊まり?」


「はい。ですから、今日は夕食は必要ないです」


 学校の帰り道。今日の夕方頃に家にひまりが来るそうでそのまま泊まっていくという話を月島から聞いた。


 つい最近、話すようになったばかりなのにもう仲良くなったのか。俺の知らないところで話したりして仲良くなったのだろう。


「ひまりと仲良くなったんだな」

 

「えぇ、ひまりさんとは夜、いつも電話してお喋りしたりするんです」


 楽しそうに話す彼女の姿を見て良かったなと心の中で思った。


 そうか……なら今日の夕食は1人ということになる。


 本来、一人暮らしなのだから1人で食べることが当たり前だが、月島と食べることになってからは1人で食べることの方が不思議だ。


 月島と別れた後、家に入ると違和感があった。いつもなら月島が疲れたと言ってソファに座りたそうにする。そして俺が手を洗ってからなと言うのがいつも帰ってきた時にするやり取りだ。だが、今日は彼女はいない。


 いつもならと言って彼女のことを思い出してしまう。実は俺は寂しがりやだったのだろうか。


 取り敢えず、夕食を先に作って勉強でもしよう。そしたら月島のこととか寂しいことを忘れられる。


 そう思って夕食を作ったのだが……


「2人分作ってしまった……」


 決して月島は今日は夕食は必要ないと言ったことを忘れたわけじゃない。それなのに彼女の分まで作ってしまった。


 勿体無いので作りすぎた分は冷蔵庫にでも入れて明日の朝食にでも食べよう。


 作りすぎた分を冷蔵庫に入れて、自分が食べる分にはサランラップをかけた。


 夕食にはまだ早い。苦手な英語でもやっておこう。


 何となく自分がよく勉強している部屋では集中できそうになかったのでリビングですることにした。


 教科書、ノートを出し、さてやろうとなったその時、ひまりからメッセージが送られてきた。


『見てみて、あーちゃんのツインテール!』


 メッセージを読み終えると月島が写っている写真が送られてきた。


(んん!? これ、本人に許可取ってるのか!?)


『可愛いな。ちなみに本人に許可は取っているのか?』


『……』


『おい、無言で返すな』


 既読はつくものの俺に怒られたくないのかひまりから返事は返ってこない。


 もう一度見るつもりはなかったが、さっき送られてきた写真をまた見てしまった。


(……ほ、保存はさすがにダメだよな)


 保存のボタンを押しそうになるが何とか抑えた。ここで押してしまったら何かの誘惑に負けた気がする。


 近くにあったらどうしようかと悩んでしまうのでスマホを視界に入らないところへ置き、勉強をすることにした。






***






 お風呂上がり、有沙とひまりは恋ばなで盛り上がっていた。


「えっ、ひまりさんと奥村くんはお付き合いされているんですか?」


「そうだよ、中学2年の時から。深がそれはもう私にアピールしてくれて───あーちゃん?」


 ひまりが話している中で有沙は、キラキラした目で話を聞いていた。


「羨ましいです。私も頑張れば気付いてもらえるのでしょうか……」


 ひまりは誰に何を気付いてほしいのかと考えた。


 相手は千紘? 何か千紘に気付いてほしいことでもあるの?


 色々考えた結果、ひまりは深とこの前話していたことを思い出した。


「あーちゃんは、誰に気付いてもらいたいの?」


 相手は誰であるかはわかったが、悩んでいるなら相談に乗りたいと思ったので順を追って聞くことにする。


「……千紘です」


「千紘かぁ、千紘は昔から色々と鈍いから気付いてもらうのは大変だと思うよ」


「そうです! そうなんです!」


 ひまりの言った言葉に同感したのか彼女は、大きな声を出した。


「お、おぉ……あーちゃんが怒ってる」


「じ、実はですね。内緒にしてもらいたいのですが、私と千紘は本当は付き合っていないんです」


「えっ、そうなの?」


 何となく察していたが、ひまりは驚いたような反応をした。


「はい。少しわけがあって……さ、最初は千紘のこと優しい人としか思ってなかったのですが、一緒にいるうちにここが好きと思うところが数えきれないぐらい増えていったんです」


「ほぉ~、つまり偽カップルだったけど、あーちゃんは本気で千紘のことを好きになったわけだ」


 ひまりが有沙の言いたいことをまとめると彼女の顔は赤くなり、コクコクと頷く。


「私、協力するよ。あーちゃんが好きだって千紘に気付いてもらえるためのお手伝い」


「ありがとうございます、ひまりさん」


「うんうん。ねぇ、一緒に写真撮ってもいい? あーちゃんのパジャマ姿、可愛すぎる!」


 そう言ってひまりは有沙にぎゅーと抱きついた。


「いいですよ」


 撮った写真を見てひまりはその写真を有沙に送った。


「これ、千紘にも送ったら?」


「お、送るのですか? 無理です、こんなの見せられません!」


 そう言って有沙は近くにあったクッションを手に取り、抱きしめた。


「千紘、可愛いあーちゃんにドキッとしてくれるかもしれないよ」


「ドキッと……」


 有沙はひまりに送ってもらった写真を見てこれを千紘に見せたらどう反応が返ってくるか気になった。






***






 勉強を終え、そろそろお風呂に入ろうかと考えていると月島からメッセージが来ていたことに気付いた。


(なっ!?)


『どうですか?』


 メッセージと共にひまりと写っている写真と自撮り写真が送られてきた。自撮り写真の方を見て俺はあるところに目線がいった。


(っ! こ、これは送ったらダメだろ!)




─────同時刻




『可愛いけど、他の奴には見せるなよ』


 千紘から返信が来て有沙はスマホの画面を見て固まっていた。


「へぇ~、千紘はあーちゃんの自撮り写真を一人占めしたいってことかぁ」


 千紘からのメッセージを読んだひまりはニヤニヤしながらそう言う。


「こ、これはどう返すのがいいのでしょうか?」


「そうだなぁ……こんなのはどう?」


 ひまりは有沙の変わりにメッセージを打った。


『言われなくてもこれは千紘にだけにしか見せません。寂しくなったらいつでもこの写真を見てくださいね』


「わ、私、こんなこと言いませんよ!」


 有沙は顔を赤くしてひまりが打ったメッセージをすぐに消すのだった。







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