第22話 楽しい遊園地
「まず、何乗ろうか?」
「とりあえずジェットコースターがいいんじゃないか? 人気のアトラクションは早めに並んでおこう」
「そうだね」
とりあえずこの遊園地で1番有名なジェットコースターに一目散に向かう。朝一番で向かったが15分待ちとなっている。
「15分なら余裕だね」
「そうだな、有名なテーマパークなら3時間待ちとかもあるって聞くからな……」
「この時期に3時間も立ってたら熱中症になりそう」
「な、気合いと生命力が必要だ」
「そういえば今週の数学は大丈夫だった?」
「ああ、なんとか理解できたよ。理解できる領域と全く理解できない領域があるんだよな。理解できないところは本当に先生が話している言語が日本語なのか疑いたいよ」
「ははは、そんなに難しくないよ。数学は重要ポイントさえ押さえれば簡単だよ」
「数学にポイントがあるのか…… そこからまず理解する必要がありそうだ」
「そういえばテニス部って3年生はいつ引退するんだ?」
「もうしたよ。6月の都大会で終わり! 今頃は受験勉強に集中してるんじゃないかな。水泳部は?」
「一緒だな。先輩が顔出してくれたけど塾が大変だってヒイヒイ言ってたよ」
「来年の今頃は受験勉強だよねえ。塾も通わないとねえ」
「俺は通いたくないなあ。一人で勉強したいんだが」
「でも仲間がいた方が頑張れない? 一人だと飽きちゃいそう」
「まあそうなんだが…… あんまり他人と競うのが好きじゃなくてな」
そんな話をしている間に、順番がやってくる。ここのジェットコースターは落差が50mを超える急降下で有名で、いわゆる絶叫マシンとして世間では認識されている。高いところは大丈夫だと言ったが、絶叫マシンに耐えられるか少し不安になってきた。
「ちょっと心配になってきたんだが……」
「どうしたの? 怖くなってきた? まあもう順番だから頑張って乗ろうね」
前田はそう言って笑う。
「前田は怖くないのか?」
「うん、私はジェットコースターは好きだよ! ぎゅーんっていう感じがいいんだよね。大声出すとは思うけど許してね。ストレス発散だから」
楽しみな前田を横目に、俺は係員の指示に従って座る。シートベルトを付けるが、これだけで空に飛び出すのか…… ジェットコースターで事故に遭って亡くなった人がいるというニュースを思い出す。このジェットコースターは大丈夫だよな……?
「大丈夫? 顔が硬いよ?」
「いや、大丈夫ではないかもしれない。ジェットコースターの事故を思い出したら怖くなってきたんだが」
「大丈夫だよ」
そう言って前田が手を握ってくれた。少し温かい感触に、冷静になる。そうだ、こんなところでビビるのは恥ずかしい。男らしいところを見せねば。事故がなんだ! 俺は心の中で自分に喝を入れて、動き出すジェットコースターの先を見つめた。
「いやー楽しかった! 噂通りいいジェットコースターだったね!」
「……」
無事にゴールし、テンションが上がっている前だとグロッキー寸前な俺。男らしいところを見せねば、なんていう気持ちはジェットコースターの落下とともに一瞬で消え去った。
「大丈夫? ちょっと休憩する?」
「い、いや大丈夫だ…… ちょっと歩けば戻ると思う。あれだ、単に揺れで少し気持ち悪くなっただけだ。怖かったとかではないからな?」
「ふふ、男の子だね。まあちょっと歩こうか。あっちの方にコーヒーカップがあるから行こうか。乗りたかったんだ」
俺たちはコーヒーカップに向けて歩き始める。少し遠いが、体力の回復に努めることができるのでありがたい。
「今井くん、高いところは大丈夫なんだよね?」
「ああ、大丈夫だぞ」
「よかった。後で観覧車乗りたいんだよね」
「観覧車なら大丈夫だ! 任せてくれ!」
観覧車も乗れない貧弱な男だと思われたくないので、自信満々に回答しておいた。前田は笑っている。これは…… 強がりがバレているかもしれない。が、遊園地ではカッコよく振る舞うべきだと俺の本能が訴えている。
コーヒーカップは全く混んでおらず、すぐに乗ることができた。周りの乗客は子供連れの母親ばかりだ。
「コーヒーカップのこの穏やかな雰囲気が好きなんだよね。なんか遊園地って感じがして」
「ああ、家族連ればかりのこの感じも悪くないな。のんびり過ごせそうだ」
コーヒーカップが回り始める。最初はゆっくり、徐々に回転速度は上がってくるが、子供向けということもありそれほど早い速度ではない。のんびりとした気分で乗車でき、非常に満足したのだった。ジェットコースターと比較すると100点満点の乗り物だ。
「いやー良かったね。このマイルドな感じが好きだなー」
「乗ったのは子供の時以来だったが、楽しかったよ。次は何に乗ろうか?」
「そうだねー、次はゴーカートとかどう? 運転するの楽しそう!」
「いいね、行こう行こう」
ゴーカートは2人乗りと1人乗りがあったが、1人乗りを選択し、どちらが早くゴールできるか競争することにした。いざ始めると、前田の運転が非常に上手くて焦る。あいつは本当になんでもできるんだな…… 結果は惨敗だった。
「私、運転の才能あるかも!」
「もはや全てに才能があるんじゃないか…… あ、音痴だったか」
「歌の話はしないで!」
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