第6話 学校からの帰り道

前田と話しながら駅まで歩く。しかし俺は失敗したことに気づく。同じく下校中の色々な生徒にチラチラと見られている気がする。

「なんか色々な人に見られている気がするんだが……」

「ね…… 多分だけど私が男の子と一緒に帰ること少ないからだと思う……」

 まあそういうことだろうな。前田と一緒に帰ってるあいつは誰だ? となっているんだろう。学校掲示板で叩かれるまであるな。掲示板は見ないことにしたい。


「まあでも、盗撮犯が尻尾を出すかもね? 私が男と一緒に帰ってた! って。そうすればラッキーだと思うことにしない? まあ誰かに聞かれたらたまたま部活終わりに会っただけって説明しとくから安心してね」

「まあ、そうだな。その展開に期待しよう。毎日警戒しながら帰るのも大変だしな」


「こんなことを聞くのもどうかと思うが…… こういう視線は慣れるものなのか?」

「いやあ、慣れないねえ。色々な人に見られてると思うとムズムズするよ。芸能人とかってそれを仕事にしてるんだから凄いよねえ。24時間気の休まらない生活を過ごすことになりそうだよ」


「前田は芸能界とか興味ないんだ?」

「ないなあ。演技とか興味ないし、モデルを目指すほどの身長もないしね。あと、メンタル弱いから叩かれたすぐ沈んじゃいそう。表舞台で活躍するタイプの人間じゃないよ。今の所は普通に大学を出て、普通に就職が目標かなあ。普通が1番難しいというのはわかってるんだけどね」

「なるほど。まあ俺も同じようなものだな。普通に生きるのが1番だ」

「そうだね、そう思う。目立つのもしんどいよ?」

そう苦笑する前田。学校1と呼ばれて注目を集める存在だけにその言葉には説得力があった。


「SNSはやってるのか? インスタとかTiktokとか」

「インスタはやってるよ。変に拡散すると怖いから鍵垢にしてるけど。学校の子とのコミュニケーション用だね。今井くんはやってないの?」

「俺はSNSは全くやってないなあ。特に投稿したい内容もないしな」

「まあそうだよねえ。私ももっぱら見るだけのことが多いよ。毎日投稿している子とかすごいなあと思っちゃう。後あんまり自分のプライベートを公開するのも恥ずかしいしね。今日はこんなご飯食べました! とか投稿するのは気が進まないんだ」


「ナイトプールに行ってみた、とか投稿しないのか?」

「今井くん、私をどんな人だと思ってるの? そんな所行くこともないよ。チャラい人にナンパなんてされたら断るの面倒だしね。私はテニスに集中するんです」

ちょっと膨れっ面の前田は可愛い。こういうあざとい姿もモテるポイントなんだろうな。


「ごめんごめん、冗談だ。まあ女の子はナンパとか大変そうだよな」

「大変だよ。涼子といる時は涼子が追い払ってくれるけど…… 時々しつこい人がいて困っちゃう。でもああいうナンパって成功することもあるからするんだろうね。どんな女の人が引っ掛かるのか見てみたいよ」


 何気なく後ろを振り返ると阿部と野口が仲良く話していた。

「阿部と野口って仲良いよな。気が合うのかな?」

「ね、よく二人で話してるよね。阿部くんは話広げるの上手いし、涼子も話すの好きだから相性がいいんじゃない? 付き合うとか付き合わないとかそういう所はわからないけど」

「野口は山田のことが好きなんだろ?」

「あ、知ってるんだ。有名なんだね。そうそう、好きらしいよ。顔と声がタイプなんだって。でも今の所山田くんに相手にされている感じはないから付き合うとかはなさそうかなあ」


「野口は阿部とか溝口みたいなタイプが合いそうだよな。二人でワイワイしている感じがイメージにあるな」

「そうだね。私もそう思う。溝口くんはちょっと元気すぎる気がするけどね。でも涼子は意外と物静かなタイプと付き合って、母性を出してくるかもしれないよ? そのあたりは未知の世界だけど」

「可能性はあるな。ああいうタイプは実は世話焼きだとかありそうだ」

「あるある。部活では結構お母さんキャラだからね、涼子は」


振り返ると野口と目が合う。野口が手を振ってきたので、俺も手を振り返す。こんな会話をしているとバレたら怒られそうだ。


俺達は駅に到着した。

「今井くんはどっち方面?」

「俺は千葉だ。前田さんは?」

「私は山手線なんだ。じゃあここまでだね、ありがとう」

「とりあえず今日は掲示板をチェックしないとな」

「そうだね。あ、そうだ。L INEやってる? なんかあった時のために連絡先交換しとかない?」

「そうだな。LINEはやってるよ」

俺達はLINEを交換した。前田は猫の画像を使った可愛いアイコンだ。


「じゃあ、また明日ね」

そういうと俺達は駅で別れた。何事もなければ良いのだが。


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