第12話 犯人候補の調査と可能性の検討

「掲示板に投稿した人を特定する方法はないのかな?」

「運営者なら何かわかるかもしれないけど…… この掲示板、色々見てみたけど運営している人や会社はわからないのよね。それにわかったとしてもIPアドレスまでだと思う。IPアドレスから住所を特定するのは警察でもないし厳しいわ」

 

「IPアドレス?」

「インターネット上でパソコンやスマホを識別するために割り当てられる番号のことね。インターネット上での住所のようなものよ。ただ、詳細な個人情報はインターネットに接続するサービスを投稿する業者が持っているから私達では把握できないわ」

 伊藤がIPアドレスの解説を始める。

「要するに特定は難しいということだな?」


「そうね。ハッカーでもいれば可能かもしれないけど…… もしくは被害届を出して警察に調べてもらうか。何罪になるかはわからないなあ」

「まだ警察が出てくるまで大事にはしたくないな。気味は悪いけど被害を受けているわけではないし……」

 警察への相談には消極的な前田。まあ、高校生の身には「警察に相談」というのは大事すぎるのは良くわかる。


「ねえ、今井くん。この写真から推測できることはない?」

 野口に問いかけられたので、少し考えてみる。

「そうだな…… まず、犯人候補から部活をしていない人は除外していいんじゃないか。理由は写真が鮮明であることだ。流石にフラッと立ち寄ってこれだけズームで、前田にスポットが当たった写真を撮るのは難しい。一定時間もしくは複数回立ち寄ってチャンスを伺っていたと見るのが妥当だろう」

 俺は話を続ける。

「制服姿の人が何回もテニス部を覗いていたら不審者だ。犯人を水を飲みながらさりげなく様子を伺っていたのではないかと考えられるな」


「なるほどね。そしたらクラスメイトでいうと山田くんなんかは除外ということね。まあ確かに、水飲み場は制服姿でウロウロする場所じゃないね」

「三橋と川崎は?」

 その二人を疑う野口。やはりまだ怪しいと考えているのだろう。

「二人とも卓球部だな。水飲み場に来る可能性は…… あるのか?」

「うん、たまに見かけるよ。体育館の方にも水飲み場あるけど、卓球部は外を走ったりもしているしね。たまに水飲み場で休憩することを見たことあるな」

 前田によると、二人の可能性はまだ残るようだ。直感的には犯人ではない、と考えているがあくまで直感なので根拠はない。まあこの学校で部活をしていない人は少数派だ。あまり絞り込みはできていない。


「後は…… やはり犯人は一定の背の高さがあると見ていいだろう。角度的に斜め上からの撮影になっているのは前回と同じだ。スマホでこっそり撮影したと考えるのが無難だろうな。一応、超小型カメラを使って靴に穴を開けて盗撮された、という話も聞いたことはある。そういった特殊なカメラの可能性も考慮しなければならない。とはいえ、写真の角度からして靴先ということはないな」


「何それ。がちの盗撮犯じゃん」

「盗撮されたという知り合いがいてな。詳しく聞くと靴にカメラを仕込んでいたんだとさ。で、スマホを操作して撮影していたらしい。知り合いが気づいて警察に突き出したら、前科があったから即逮捕だったらしいけどな。後はボールペン型のカメラなんてものもあるらしい」

「そこまで行くとほぼ犯罪ね。しかしいずれにしても何かしら怪しい動きは見せるでしょうね。部活中にボールペン持ってたら違和感しかないでしょ? 警戒することは出来そうね」

「ああ、伊藤の言うとおりだと思う。それに撮影には何かしらの動作が必要なはずだ。それさえ気づけば問題ない」


「ねえ、今井くんはまだ盗撮は続くと思う?」

 前田に心配そうな顔で尋ねられる。

「そうだな…… 続くと思うぞ。さっき掲示板を見たら「次はもっとすごいのを期待ください!」とコメントされていたからな」


「もっとすごいの…… 怖いんだけど」

「気持ちはわかるが…… 逆に言うと犯行シーンはより明確になるだろう。犯人自らハードルを上げているということは、さりげない日常シーンではないと言うことだ」

「なるほどね。どんなシーンだと思う?」


「1番ありうるのは着替えのシーンとかかしら。下着の盗撮も考えたけどあまりにも偶然性が高くて撮影できるとは思えないもの」

 伊藤が答える。

「そうだな…… 着替えは気をつけたほうがいいかもな。とはいえ今は体育は水泳だ。女子更衣室に隠しカメラを設置するのは規模が大きすぎる気がする」

「そうね。トイレとかも考えたけど、そこまで行くと100%犯罪だし、退学だものね。犯人にとってあまりにもリスクが高すぎると思うわ。教室でさりげなく撮影する、という可能性が1番高いと思う。ただ具体的なシーンは想像できないわ」

「なるほど、ありがとう伊藤さん。とりあえず、気をつけるね」

「着替えは部室にしたほうがいいかもね」

「うん、大丈夫。他で着替えることはないよ」

「念のため、部室の調査もしておいたほうがいいかもな」

「そうね、今日は早めに行って確認してみる」

 そう言って前田と野口は戻っていった。

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