第11話 新たなる盗撮

 翌日、通学中に掲示板を再度確認する。結局前田に関する投稿はなかった。もう事件は終わったのか?


「結局何もなかったな」

「ええ。肩透かしよ。まあ毎日警戒するしかなさそうね」

「事件が起きる方がいいのか、そうでない方がいいのか、複雑な気持ちだよ」

 俺と伊藤は昼ごはんを食べながら会話する。親は共働きで忙しいので、俺は自分で弁当を作っている。いつも冷凍食品がベースだが。今日はなんとなく気合いを入れて卵焼きを作ってみた。

「その卵、自作? 美味しそうね」

 伊藤にめざとく見つけられる。どうしてわかるんだ。

「そうだが、よくわかったな」


「いつも同じ弁当だからね。違うものが入ってた目立つよ」

「ああ…… なるほど」


「さて、今日は何議論するか決まった?」

「そうだな…… 資本主義と共産主義どっちが素晴らしいかというのはどうだ?」

「何その70年代みたいなテーマ。学生闘争をしてた時代じゃないんだから」

 昨日歴史の授業で先生が話していたので振ってみたが、伊藤もよく覚えている。当たり前だが時は21世紀、学生闘争など過去のものだ。


「その議論を今風に変化せるなら……ルッキズムについて、とかになるのかもね。顔が整っていることが高評価される世の中は良いのか否か、ね」

「ああ、平等な社会ではないというとそうだな。俺はルッキズムには賛成派だな。どうせ人間は何かで自分と他人で比べるものだ。顔が良いかどうかは一つの大きな尺度として否定するものではないだろう」

「なるほどね。でも顔が良いか悪いかなんて運じゃない? それで評価が大きく変わる社会ってどうかと思うんだけど」

「まあなんでも運だろ。運動神経もそうだし、勉強もそうだし」

「でも顔は努力ではどうにもならないよ。生まれながらの才能だけで評価されるのは不公平だね」

「評価はされるが、大変なことも多いと思うぞ。前田が言ってたなあ。モテると人間関係で気をつけることが多いから大変だって」


「待って。前田さんといつそんな話したの?」

「ああ…… 昨日の帰り道だったかな? 警戒ついでに一緒に帰ったからそこで話したと思う」

「いつの間に仲良くなってるのよ。意外とチャラいのね、あなた」

「ちげーよ。普通に会話しただけだ」

「どうだか」

 伊藤の発言の鋭さが増している。変なイメージがつけられそうだ。これは間違っても昨日電話した、なんてことは言わないほうが良いだろう。


「まあ、それはいいとして……」

「良くないわ。気をつけてよほんと。前田さんと仲良くなった男子はすぐメロメロになっちゃうんだから。調子に乗って告白しようもんなら撃沈リストが更新されるだけよ」

「ああ、そこは大丈夫だ。流石に自分の立場をわきまえてるよ」

「だといいけど…… あの子、男子を好きにさせるの上手いからね。魔性の女ってやつだと思うよ」

 なぜか伊藤は警戒心が強い。昔何かあったのだろうか? 聞いてみたいが…… ここは自重しよう。そっとしておくのが1番だ。


 そこから数日は特に何事もなく過ぎていった。俺はあの日以来前田とは帰っていないが、特に怪しい人物には会っていないようだ。それは前田からLINEで教えてくれる。また盗撮する、という風な掲示板の発言はフェイクだったのかもしれないな。


 しかしそう人生は甘くはない。数日経ったある日、俺は朝練を終え教室に帰ると、前田と野口が深刻そうな顔で話しているではないか。また盗撮されたのか?

 俺は急いでスマホで掲示板を確認する。すると昨日の夜に、また前田の写真が掲載された板。今度は部活中の写真だ。今回もまた投稿主に感謝する声で溢れている。テニスのユニフォーム姿が良く似合うと絶賛の嵐だ。まあ見る側からすると盗撮が犯罪かどうかなんて関係ないものだ。


 昼休み、野口と前田が討論部の部室に来た。

「掲示板見た? また葵が盗撮されてるんだけど」

「見たぞ。今度は部活中だったな。そこは見ていなかった。申し訳ない」

「いやいや、今井くんは悪くないよ。流石に部活中に監視するなんて出来ないからね」


 前田が優しくフォローしてくれる。まあ部活中は俺はプールか筋トレ室にいることが多い。流石にテニス部を監視することは出来ない。伊藤も部室からはグラウンドは見えないし、これは完全にしてやられた状況だ。


「ちなみに、いつ頃の写真かわかるか?」

「うーん。具体的にはわからないけど…… ただ、リストバンドをしてるでしょ? このリストバンドをつけ始めたのは1週間前なんだ。だから最近の写真だと思うよ」

 この1週間では絞り込みは難しいな。ただ、昔の写真を使ってアリバイ証明をしようとしている、というようなことはなさそうだ。直近撮影した写真をすぐ投稿したのだろう。


「なるほど。後、この撮影場所はどこか想像つくか?」

「多分だけど水飲み場ね。テニスコートの近くに水飲み場があるの。ちょうど角度的にはそこだと思う」

「そうなると、盗撮犯として違和感がないのは部活をやっていて水を飲んでいる人達か。どういう生徒が多いんだ?」

「グラウンドを使う部活かな。サッカー部や野球部は特によく見かけるよ。ただ…… 断言は出来ないかも。普通に帰宅部の生徒が来た可能性もある。そこまで注目したことはないからね」

 前田曰く、水飲み場から撮影した写真だろう、ということだ。確かに体育の時間に見たことがあるな。水を飲むふりをして撮影したのだろうか。

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