第24話 逃走、そしてカフェでの休憩

「さて…… どうする?」

「そうだね…… まあちょっと場所変えようか? 流石に溝口くんと会うのはちょっと面倒かも」

「そうだな。確実に歩くスピーカーだろうからな。どこかカフェでも行くか?」

「いいね、そうしよっ」


 俺達は急足で遊園地を出る。スマホで検索すると、ちょうど近くにチェーンのカフェが会った。ここの奥にでも行けば大丈夫だろう。アイスカフェラテを2つ注文し、席に座る。

「ふう、冷たい飲み物はいいね」

「だな、涼しいし生き返る気分だ」

「楽しかったけど暑かったね。山田くんからプールの話聞いて入りたくなっちゃったよ」

「な。すごい大きいプールで、ウォータースライダーとかもあるらしいからいつか行ってみたいところだ」

「ウォータースライダーは大丈夫なんだ?」

「…… 揺れなければ大丈夫だ」

カフェラテをかき混ぜながらニヤニヤする前田。すっかりジェットコースターと観覧車のせいでいじられるようになってしまった。


「しかしこんな所でクラスメイトと会うとはねえ」

「な。まあでも冷静に考えると、遊び場所としては妥当だよな。それほど遠くないし、すごい高いわけでもないしね」

「そうだね。1万円かかるような遊園地もあると思うと、そこまではお金かからないしね」

「そうそう。しかしそう考えても山田と村上のペアは意外だったけどな」

「確かにね。山田くんは女の子にそんなに興味がなさそうだし」

「あいつは不思議キャラだからな。常識人ではあるが謎行動や発言が多すぎる。仲良い女の子がいるなんて知らなかったよ」

「プールに一緒に行くってすごいよね? 男の子とプールとか普通に恥ずかしいよっ」

「な。相当親しい関係なのか、それとも山田があまり考えずにチョイスしたのか、村上が攻めたのか。その辺りの真相は今度聞いておく」


「よろしくね。私村上さんには嫌われてるから……」

「あー、そうだったな。しかしそう考えると村上は好きな男が山田に変わったということか?」

「確かにね。まあ女心と秋の空って言うし」

「そんな言葉もあるな」


 二人で話しながら涼む。外にはもう出たくないな、そんなことを考えながらふと前田を見ると、前田のまつ毛が長いことに気づく。地毛なんだろうか? 流石にデリカシーというものが俺にはあるので聞くことはしないが。


 話しているうちにカフェオレを飲み干してしまった。

「飲み物も無くなったし、帰りますか。ねえ、そこの駅だと溝口くんとか山田くんとかと鉢合わせするかもだから一駅歩かない?」

「アリだな。隣の駅は…… 意外と近いな。15分くらいで行けそうだ」

「いいね、じゃあ暑いけど歩きましょー」


「今井くんって今年の夏やってみたいこととかある?」

「そうだな、色々あるぞ、花火大会に夏祭り、盆踊りに海で遊ぶ、カブトムシ取りにBBQだ」

「盛りだくさんだね、全部やるの?」

「いや、まあ冗談だが。家で大人しくゲームでもするさ」

「FPSだよね? まあ夏は暑いし、そっちの方がいいかもね。でも来年の夏は受験勉強だよ。今年の夏に遊べるだけ遊んどかないと」

「確かにそれはそうだな。前田は何かしたいことあるのか?」

うーん、そう言いながら前田は何かを考えているようだ。沈黙が訪れる。

「そうだなあ…… 色々あるけど…… 夏祭りは行きたいな。去年買った浴衣を着たいなあって」

「浴衣か。似合いそうだな」


「……それだけ?」

「ん? いや、似合いそうだと思ったんだが……」

少し怒った様子の前田を見て、俺は何かを間違えたんだろうと理解した。だが、何もわからない。明日学校で伊藤に聞いてみるか、俺は心の中でメモをしておいた。


駅に着く頃には機嫌をすっかり戻していた前田と電車に乗り込む。

「今日楽しかったね」

「ああ、いつも泳いでいるかゲームしているか筋トレしているかだったからいい気分転換になったよ」

「私もテニス以外のこと久しぶりにしたな。またどっか行きたいね」

「そうだな。体を動かす系とかがいいかな? ボーリングとか?」

「ボーリングいいね。ピンが倒れる音気持ちよくて好きなんだ。そんなに上手くはないけど」

「俺もそこそこだから大丈夫だ。ボーリングなら時間的に部活終わりでも気楽に行けるからいいよな」

「そうだね。また調整しようねっ。じゃあ私はここで乗り換えだから、またね!」

 そう言って前田は降りて行った。俺は一人残された電車で、今日のデートの総括をする。まあ全体的には合格点だろう。楽しそうにしていたからな。ジェットコースターと観覧車も笑ってくれたからよしだ。後はなぜか一回怒られたが、それだけだな。俺は忘れないうちにと思って伊藤にLINEをする。


「なあ、前田と話していて、浴衣を去年買ったから来たいと言われたから、浴衣似合いそうだなって言ったら怒られたんだけど理由分かるか?」

しばらくしてスマホが震えた。伊藤からのメッセージだ。

「何? ノロケ? それくらい考えたら分かるでしょ」

 簡単な問題だったようだ。俺はスマホをそっと閉じ、しばらく考えてみたが何も答えが出てこない。はあ、恋愛上級者なら楽勝なんだろうな。

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