第27話 伊藤との議論

「さて、少し整理しておこうか」

「そうね。まず、どのタイミングの可能性があったかを整理しましょうか」

 そう言うと伊藤は、黒板に何かを書き始める。

着替え直後→机にかけている間→下校時



「まずこの3パターンはあり得るわね。もう少し細かくしてみましょうか」


着替え直後→教室への帰り道→授業中→昼休み→休み時間→部活中→駅まで→電車→家まで


「詳細化するとこうなるわね。この中で現時点でないと断言できるのはどこかしら?」

「あり得ないのは授業中と電車だな。授業中については誰かが前田の席に立ち寄る際に気づかないはずがない。昨日は移動教室もなかったし除外して良いんじゃないか? 後、電車は前田自身が空いていて近寄る人はいなかったと発言している。これも対象外だろうな」

「そうね、その2つに関しては私も同意よ」


「後、本人が持っているバッグから水着だけを抜き取るのも極めて難しいと思うわ。プールバックだから縦長のカバンでしょ? そして合理的に考えると水着は隠れるようにタオルの中か奥底にしまっていたはず。そこからスリのように盗み出すのは…… 本物のスリでも難しいと思うの」

「なるほど、そうだな。そうなると、「教室への帰り道」・「駅まで」・「家まで」は除外しても良さそうだな」

「ええ、それらを消すと残ったのは……」


昼休み→休み時間→部活中


「昼休み、休み時間、部活中、ね。まあ妥当かしら」

「そうだな。どのタイミングも誰も見ていなかったタイミングあってもおかしくないからな」

 俺と伊藤はそこで黙り込んでしまう。俺達はおそらく同じことを考えている。少し躊躇うように伊藤が声を出す。

「1番可能性が高いのは部活中……かしらね。この中で誰も見ていない時間が1番多いわ。また、女子テニス部の人間なら荷物を置いている部室にも違和感なく入ることができる」

「そうだな……」

 そう、1番可能性が高いのは、犯人は女子テニス部のメンバーであるということである。つまり前田の1番身近な存在だ。仲のいいチームメイトが犯人というのは…… ショックを受けるだろうな。

「まあまだ、決まったことではないわ。可能性はあるっていうだけね」

「そうだな。まあ候補としては残しておこう。しかしもう一日経ってしまっているのは厳しいな。もう手元に水着を持ってない可能性が高いから荷物確認をするのも難しい」

「そうね。やっても良いけど意味はないでしょうね」


「ちなみに、伊藤は水着を盗んだ理由はなんだと思う?」

「パッと思いつくのは、性癖ね。小学校の頃に好きな女の子のリコーダーを舐める男子がいるんでしょ? そういう感じじゃないかしら」

「それは聞いたことあるが、水着を盗んだなんていう話は聞いたことないぞ。さっきも言ったが水着自体に興奮する男子がいるのかは俺には疑問だよ」

「…… 後は困らせてやろう、という魂胆かしら。水着がなければ次の授業までに買い直さないといけないしね」

「そうだな。ただ、なんで水着だけ? というのは疑問だ。他に盗んで困らせることができるものはたくさんあるだろう。部活だったらテニスラケットとかの方が高価だし困りそうじゃないか?」


「あんまり派手にやったら警察沙汰になるからじゃないかしら? まあ想像でしかないけど」

 キーンコーンカーンコーン。予鈴が鳴る。昼休みは後5分だ。

「時間がないね。とりあえずここからどうする?」

「とにかく盗撮と窃盗はどちらも現行犯逮捕するしかなさそうだ。盗撮の方が捕まえるチャンスは多そうだから見張るしかないか。後は次の水泳の時に気をつけるくらいだな。今週もう一回水泳あるよな? その時だな」


「そうね、それしかないかも」

「しかし待つだけというのも歯痒いな。何かこちらからアクションを仕掛けれるといいんだが」

 俺達は肩を落としながら教室に戻る。事件ばかりが繰り返されるが防ぐことができていない。前田のことを思うと申し訳ない気持ちだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る