第26話 重大事件発生 〜後編〜

「もしもし」

「もしもし、今大丈夫?」

 少し前田の声が暗く感じる。元気ではなさそうだ。

「ああ、どうした?」

「なんかね、今日の授業で使った水着がプールバックに入ってないの。誰かに盗まれたのかもしれない……」


 水着が盗まれた、か。盗撮では飽き足らず、実際に物を盗むという形になったのだろうか?

「なるほど。いつ頃まであったかはわかるか?」

「水泳が終わって着替えた時はカバンに入れたのは覚えてるよ。その後は触ってないから確認してないけど…… 盗撮犯に盗まれたのかな?」

「可能性はあるな」

 俺は急いで掲示板をチェックする。ただ、まだ掲示板には前田に関して何も書かれていない。

「特に掲示板には何も書かれていないな」

「そうなんだ。これはちょっと怖いよ…… ねえ、どうしたらいいかな?」

「とりあえず伊藤も含めて議論しよう。明日昼、討論部の部室に来れるか?」

「わかった。ありがとう」


 電話を切った後、俺はリビングに戻りながら考える。水着を盗むという理由は置いておこう。だが、どのタイミングで水着を盗むんだ? まずは置き忘れの可能性はないかの確認からか? そんなことを考えるも答えは出ない。どうしたものか。


 翌日昼に俺と前田と伊藤が討論部の部室に集合する。

「今日は1人なのか?」

「うん、涼子も来たがっていたけど用事があるらしくてね」

「わかった」

 前田は朝からやはり元気がない。今もしょんぼりと下を向いている状態だ。


「とりあえず状況を確認させてくれ。夜家に帰って洗濯機に水着を入れようとしたら水着が入っていないことに気づいた。で、家の中を探したけどない、ということであっているか?」

「うん、あってる」

「水着以外はあったのか?」

「タオルはあったよ。水着とタオルしか入れていなかったから他に盗まれたものはないと思う」

「なるほど。で、昨日の水泳後にカバンに水着をしまった記憶はあるがそのあとは見ていないと」

「そうだね、チェックする理由がなかったから見てないよ」


 水泳は2時間目と3時間目だったので、それ以降になくなったということか。

「ごめんなさいね。基本的な確認だけど…… 教室に置き忘れたという可能性はない?」

「ないよ。自分の着た水着を教室で鞄の外に出す理由はないからね。そんなの恥ずかしくない?」

「そうね、その通りだわ」

「更衣室に忘れた可能性はどうだ?」

「朝確認したけどなかった。落とし物にも届いていないみたい」


「となると、移動中に落としたか、誰かに盗まれたかということになるか……」

「帰りの電車とかはどう?」

「うーん、特に混んでいなかったからなあ。鞄をゴソゴソされた気づいていたと思うよ」


 なるほど、やはり学校で盗まれた可能性が高いということだな。生徒による犯行の可能性が高いと見て良いだろう。


「なるほど、やはり盗難か。昨日盗撮犯の犯行じゃないかという話をしていたが…… 不思議なのは掲示板なんだ」

「掲示板がどうしたの?」

「昨日から今日にかけて頻繁にチェックしているんだが…… 水着に関する投稿やそれを匂わせる投稿がないんだよ。今までのパターンから言うと掲示板に投稿して賞賛を得ていただろ? 今回はそれをしていないんだ」


「そうね、私もそれは気になっていたわ。後、犯行があまりにも大胆すぎる。隠し撮りと水着を盗むって相当の差があると思わない? 急にそんな行動に出るなんて想像できないわ」

「そうだね。でも過激な写真を期待してくれ、って言ってたじゃない? 私の水着の写真を投稿する気なのかもよ?」

「うーん…… これは男子の一般論だが、水着を着ている女子を見て、おおと思うことはあっても水着単体で興奮することは少ないんじゃないかと思う。こういうとなんだが、ただの水着だからな……」


「つまり別の犯人の可能性がある?」

「そうとも言えるし、そうではないかもしれない。同じ犯人だがなんかしらの意図がある、もしくはこれからわかる可能性もあるからな」

「とりあえずもう一度校舎や更衣室を見てみない?」

「そうだな。念の為にな」

「うん、わかった」

 俺と伊藤と前田はプールから教室の前の通路や付近のトイレ、更衣室など様々な所を確認する。ただ、やはり水着は存在しなかった。


「やっぱりないね。次の水泳までに水着買い直さないとなあ」

「そうだな…… 出てくる可能性もあるが、これから出てきても気味が悪いしな」


「前田、ちょっと考えてみるよ。また何か思いついたことあれば教えてくれ」

「うん、分かった。ありがとうね」

 厄介な問題が起きている気がする。俺は歯痒い思いをしながら一度討論部の部室に伊藤と戻る。授業が始まる前に整理しておきたいからだ。

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