第31話 事件は終わらない

「さて…… じゃあ水着も返してあげてくれないか?」

「水着? なんの話だ?」

「お前が水着を盗んだんじゃないのか?」

「葵ちゃんのか? 勘弁してくれよ。そこまで変態じゃないぞ、俺は。そもそも女子の水着を漁ってるが見つかったりしたら俺もう学校行けないぞ?」

「盗撮でも相当変態だけどね」

 伊藤の厳しいツッコミが入っているが、前田の水着が盗まれた件については溝口は犯行を否定している。どうやら犯人は別のようだ…… これは別途考える必要があるだろう。


「わかった。それは忘れてくれ。とりあえず写真撮影の件は俺から前田に伝えることもできるが、自分から謝ってくれ。それで前田が許してくれるなら手打ちでいいだろう。事を荒立てるつもりはない」

「そうか…… わかった。きちんと謝るよ。気を遣ってくれてサンキューな」

「まあ、前田次第だけどな。ちゃんと謝るようにしろよ?」

「ああ、じゃあ俺は教室に戻るよ。とりあえず今回の件についてはすまなかった」

 そう告げると、溝口は教室に戻っていた。平和に解決するのかどうかは前田次第だ。ただ、なんとなくだが前田はきちんと謝れば許しそうな、そんな気がした。


「とりあえず盗撮は解決して良かったわ。ただ、水着の件が残ったわね」

「ああ、犯人は別にいるということだ」

「また、現行犯で捕まえないと行けない気がするわ」

「そうだな。それ以外で俺達にできることはないだろう。ただ、犯行の手口がわかってない上に、犯人にメッセージを送ることもできない。明らかに水着を餌にして誘き寄せようとしても、他のやつが食いついたら犯人を警戒させて大失敗になりかねない」


「そうね。同じシチュエーションが発生した時に犯人がまた同じ行動に出る可能性に賭けるしかなさそうね」

「ああ。だが、俺の勘だが犯人はまた水着を盗むんじゃないかと思うんだ。犯人は誰にも水着の事を伝えていなさそうだが、ということは明らかな好意か悪意に基づいて動いているのだろう。好意だとすると、また前田の水着をコレクションしたいという欲求が出てくる可能性は全然おかしくないし、悪意でもまた傷つけたいとなるだろうからな」

「確かに。水着を盗むという行為は目的なのか、それとも犯行の都合上なのかはわからないけど、いずれにしてもまたチャンスがあれば同じことをする可能性はあるわね」


「問題は犯行がいつ行われたか、だ。前回の議論では昼休みか休み時間か部活中の3択に絞り込まれたが…… ここからが難しいな」

「昼休みか休み時間だとすると、誰にも気づかれずに中身を盗む技術が必要じゃない? そう考えると1番可能性があるのは部活中に思えるけど。部活中なら部室の中に入れば簡単に盗めるわ。そして水着だけなら前田さんに気づかれない可能性が高いから、自分のカバンに移しておいて、部活終わりに堂々と持ち帰ったのかも。ただ……前も議論になったけど、部活仲間ならもっと他の物を盗んでもおかしくない。なぜ水着なの? という点は多いに謎だけどね」


「ああ、そこは疑問点として残るな。好意でも嫌がらせでも制服であったりスマホであったり他に盗むものはある気がする」

「まあそうだけど、いずれにしても昼休みや休み時間に盗むのは相当難しいんじゃない? 一瞬で手に取る、マジックのような方法があるなら別だけど。忍者なら影分身でできるかもね」

「そうだなあ……」


 確かに、と考えた瞬間、「影分身」というワードが頭をよぎる。分身の術か…… その時俺は閃いた。こういう風にすれば可能なんじゃないか?

「伊藤は一つ忘れていることがあるぞ。…… これならどうだ?」

「なるほどね。確かにそれなら可能だわ。部活の仲間が犯人というより可能性は高そうね」

「ああ、そして水着が狙われた理由も説明がつく。水着が欲しかったのではなく、水着だから可能になったんだろう。犯人は偶然出来たこのタイミングだからこそ犯行が可能になったんだ。そうなると次の犯行タイミングも予測できる」

「ええ、そうね。なんとしてもこのタイミングで犯人を捕まえましょう」

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