第42話 エピローグ
いよいよ夏休みが翌日に迫った金曜日の朝、俺は阿部と筋トレルームにこもっていた。今日は阿部と俺しか利用者がいない。夏休み前だからだろうか?
「いよいよ夏休みだな。BBQ楽しみだぜ。誘ってくれてサンキューな」
「ああ、6人だとちょうどいいだろうという話になってな」
「しかしあれは誰が企画したんだ? 不思議なメンバーだよな」
「野口から声をかけられたんだ。俺もよくわかっていないが、まあクラスメイトと仲を深めようの会なんじゃないか?」
とりあえずすっとぼけておいた。冷静に考えれば阿部からすれば謎のメンバーだろうな。しかし説明すると話が長くなるので、適当に誤魔化しておくに限る。
「まあなんでもいいけどさ。前田さんの私服がどんな感じなのか楽しみだよ。BBQだからまあそんなお洒落に決め込んでくることはないだろうが…… それでも可愛いだろうなあ」
「そんなお前はちゃんと服はあるのか?」
「ああ、大丈夫だ。BBQに向けて勉強するよ。お洒落デビューしてやる。お前も大丈夫なのかよ?」
「ああ、任せろ。それなりの服はすでに買ってあるよ」
「期待だな。まあ男の私服に興味はないが」
あれから掲示板に前田の盗撮写真が新しく投稿されている様子もない。前田の話で盛り上がることもなく、夏休みについて色々な話が飛び交っていた。カップルと遭遇しやすい夏祭り、などが紹介されており参考になる。溝口ももう盗撮は辞めたようで、メガネを掛けている姿を目にすることはない。今まで通りの平和な学校生活になったようだ。
「もう夏休みだなあ。1学期はあっという間だったよ」
「そうねえ。気づいたらすぐ冬になってそうだわ」
伊藤と俺は部室で昼食を食べる。この流れも夏休みの間は無くなるので、少し寂しいことも否めない。
「そういえば私がBBQ参加して大丈夫なの? なんかLINEのグループ見たら不思議なメンバーだったけど」
「ああ、山田が話してみたいとさ。討論がしたいらしいぞ」
「さすが山田くん。変わってるわね」
「山田が伊藤に興味があって、野口は山田のことが好きという複雑な状況だが、楽しんでくれ。遠くから見守ってるよ」
「他人事だから余裕ね。前田さんと2人でどこか消えるとか辞めてよ?」
「ないない。俺は阿部と遊んでいるさ。山田が教えてくれたBBQ場に川があるらしくてな。泳ごうかという話をしている」
「さすが水泳部ね。じゃあ私も水着持っていこうかしら」
「皆で泳ぐか。水着も持ち物に加えるかだな」
夏休み前最後の授業が終わり、担任の先生によるホームルームが始まる。宿題はすでに各教科ごとに配られているが…… 全く連携をとっているとは思えない量だ。夏休みも毎日勉強しなければいけなさそうである。
「とりあえず、夏休みだからって羽目を外しすぎないようにな。来年から受験だから遊びたい気持ちはわかるが、トラブルに巻き込まれないように気をつけてくれ。では、以上だ」
先生による諸注意が終わり、解散となる。さて泳ぐか、俺がそう考えながら荷物を片付けしている時だった。
「ねえ、前田さん。中学の友達が、この、ショッピングモールで男の子と歩いていたのを見たって言ってたよ。心当たりある?」
「ああ、あの時かな。見られてたんだ。恥ずかしいなあ」
「えー、本当だったんだ。誰と遊んでたの?」
「内緒だよ。まあ色々あってね」
「そうなんだ。その男の子とは付き合ってるの?」
「いや、付き合ってはないよ。これからって感じかな?」
「そうなんだ。ついに前田さんに彼氏ができるかもしれないんだね! これはビックニュースだよ」
「もう、まだ決まったわけじゃないからやめてよ」
クラスメイトの女子と前田が話している声が聞こえてくる。なんとなく気まずいと感じて俺はそっと教室を後にした。これからどうなっていくのか? 俺にもわからない。が、とにかく楽しければなんでもいいか、そう考えることにした。人生何があるかわからないからな。楽しめるうちに楽しんでおこう。
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