第9話 学年1の美少女との電話 〜前編〜

親との約束通り、1時間で俺は友達に別れを告げ、ゲームを終える。さあ、宿題と明日の予習をするか。ゲームで休憩した分、1時間勉強するのが俺のルーティンである。というより、毎日1時間くらいは勉強しないと学校の授業についていくことができない。国公立大学に進学する生徒も多い高校なので、授業のレベルも高い。というよりスピードが早い。わからない生徒は置いていかれるのがこの学校の暗黙のルールである。


 特に数学はレベルが高いようだ。2年生の間に3年生分全部授業で終わらせて、後は受験対策に移行すると説明を受けているが…… ちょっと早すぎる気がする。数学の予習と復習はきちんとしておかないとちんぷんかんぷんになるのだ。塾に通う生徒もいるが、塾に通うことは学校としては歓迎していない。「授業をちゃんと聞くだけで大学は合格できる」と学年主任の先生が言い切っていたのをよく覚えている。


 俺はしばらく参考書と教科書を見ながら数学の勉強をしていたが…… だめだ、わからない。完全にギブアップだ。俺は椅子に深くもたれかかり、天井を見上げた。これはまずいなあ……


 そんなことを考えている時だ。ぶー、ぶー。スマホが震える。メッセージではなく

通話のようだ。画面を見ると、LINEの通知で「前田」と表示されている。前田から通話?

さっき連絡先交換したばかりだが? とりあえず電話に出てみることにした。


「もしもし」

「もしもし。ごめん、今忙しかった?」

「いや、数学の勉強で詰まっていたところだ。大丈夫。どうかしたか?」

「そうなんだ。ごめん、ちょっと電話したくなっちゃって…… 数学って明日の授業の?」

 なんとなく電話したくなることってあるんだな。俺は用事がないと電話やチャットをしないタイプなので軽く衝撃を受ける。まあ精神的に疲れているんだろう。いい機会だし数学を教えてもらうか。


「いや、前の授業の復習だよ。さっぱりわからなくて困ってるんだ。前田って数学得意だったよな?」

「あー、そうだね。数学は得意だよ。教えてあげようか?」

 なぜ前田が数学得意か知ってるか? それは簡単な話である。前田は極めて成績が良い生徒として有名だからだ。特に数学が出来る生徒は先生に可愛がられる傾向があるので見ているだけでわかる。


「おお、助かる。教科書の103ページなんだが……」

「ああ、ここはね……」

そこから10分ほど丁寧に数学を教えてもらう。数学が得意なやつは2パターンいる。他人に説明することができない直感型と、基本からしっかり積み上げる努力型だ。前田は後者のようで非常に説明がわかりやすい。

「なるほど、助かったよ。なんとか授業についていけそうだ」

「よかった。数学の授業早すぎるよねー。毎日必死だよ」


「俺はもう諦めつつあるぞ。もう数学で受験せずに済む私立を受けたい気分だよ」

「まだ1年以上あるから焦らなくて良いと思うけど。ちょっとずつやっていけば大丈夫だよ」

「まあな。前田はどこか行きたい大学あるのか?」

「うーん、特にはないけど、国立には行きたいかなあ。この学校にいるとどうしても……ね」

俺達の学校は極めてわかりやすく国公立至上主義である。巷では「4年制の高校」と言われているほどだ。どういうことかと言うと、高校3年生で皆国公立の受験を行い、落ちた人は私学に行かずに予備校で浪人をする文化がある。現役で私立に行く生徒は逃げたと見なされる文化があるのだ。


「今井くんはどこでも良い感じ?」

「そうだなあ。俺は…… 考えている進路はあるんだが、大学はどこでも良いかなあ。まあ親は国公立の方が喜ぶだろうけどな」

「まあ学費出してもらうならそうなるよねえ。全然学費が違うもんね」

「そうだな。うちは中学生の妹もいるしな。学費は低いに限るよ」

「それなら数学頑張らないとねっ」


「ねえ、今井くんは彼女とかいるの?」

「いや、いないな。特に欲しいとも思わないしなあ」

「今までいたこともない?」

「中学の時に好奇心で1回付き合ったことはあるが、すぐ別れたよ。高校入ってからはないな。前田は1回もないんだっけ?」

「うん、ないよ。なかなか縁がなくてね…… こだわってたらハードルが上がりすぎて試しに付き合うこともできなくなっちゃった」


「まあ、確かに前田が誰かと付き合い出したら騒動になりそうだしな……人気者も大変だな」

「溝口くんみたいな人気者なら自由にしても良いと思うけど、私の場合恋愛系で人気者だからね。なかなか厳しい戦いですよ」


「そういえば俺の妹の友達が前田のことが好きになったらしいぞ。紹介しようか?」

「妹さんって中学生って言わなかった? 流石に中学生の男子は犯罪だよ」

「ははは、冗談だ。まあでも年下男子って今流行ってるらしいぞ。」

「もうっ。流石に年下は年下でも中学生は問題しかないよ。社会人の彼氏を作るより問題な気がする」

残念だな、智樹くん。高校生になってから頑張ろう。


「社会人も犯罪臭がするが」

「ね、やばいよね。彼氏が28歳っていう友達いるけど…… 正直女子高生と付き合う28歳ってどうなの? って思っちゃうよね?」

「俺が28歳になって高校生と付き合っているところを想像すると…… 厳しいものがあるな」

「誰でも厳しいと思うよ。まあ大人の余裕があってかっこいいらしいけどさ…… 流石にやめておいた方がいいなと思ってる。まあゾッコンだから言っても聞かないけどさ」

まあ世の中には女子高生の制服が好きだというおっさんは多いと聞く。そういうタイプなのかもしれないな。流石に問題発言になりそうなので前田には言わないが。


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