第33話 現行犯確保

時は経ち、夏休みが近づいていく。いくつか水泳の授業を受けたが予想通り何も起こらなかった。今日は、先生の都合で2時間目、3時間目は体育の日だ。俺達は朝から気持ちよく水泳を行なった。前田も水泳に参加しているようでその姿を見かける。特に変わりはない、暑い夏のプールだ。


「暑かったねー」

「プールも意外と暑いだろ? グラウンドよりはマシだと思うが似たり寄ったりだよ」

「そうだね。夏のプールを舐めてたよ。ところで、今日だっけ?」

「ああ、今日だな。なるべくいつも通り、自然に振る舞ってくれ。俺と伊藤が監視する」

「わかった。よろしくね」

 俺と前田は帰り道に軽く打ち合わせをしながら教室に戻る。


午前の授業が終わり、昼休みになる。俺は伊藤と昼食を食べる。ただいつもと違って今日は教室での食事だ。

「なあ、どう思う?」

「今日、実行されるかってこと? どうだろう。もう、こうなったら現行犯逮捕したいわね」

「そうだな。そうでもないと事件が終わらない」

「だね。夏休みは気持ちよく迎えたいわ」


昼休みが終わると掃除の時間だ。机を後ろにずらし、掃き掃除を行う掃除係を眺めながら伊藤と雑談をする。

「夏休み、伊藤は何かするのか?」

「討論部の活動かなあ。大きなディベート大会が大阪であるの。それに出る予定よ」

「トーナメントでもするのか?」

「正解、トーナメント形式よ。負けたら1回で東京にとんぼ帰り、勝ったら最大3日間の旅行ね。まあその準備で夏休みはなくなりそう。なんだかんだで調べものをしたり、論理を組み立てたりとすることがたくさんあって忙しそう。今井は?」

「うーん、水泳部の活動以外は何も決まってないな。特にイベントがあるわけではないから学校で泳ぐくらいしかすることはなさそうだ」


「そうなんだ。前田さんとは何かしたりしないの?」

「今の所、特に予定はない。事件解決すれば元の関係に戻るんじゃないか? 今だけだよ」

「うーん、どうだか。話聞いてる感じそんな感じじゃないと思うけどなあ……」

 そんな話をしながら、掃除が始まってしばらくした時だ。前田の席の前に移動する生徒が視界に入る。

「ああ、あいつか」

「でしょうね。行きましょう」


「なあ、村上。今持ってるプールバックを見せてもらえるか? 伊藤は中身を確認してくれ」

「なんで見せないといけないの?」

「今なら俺達だけの話で終わる。抵抗するなら騒ぎにするぞ?」

「…… わかった。ベランダでいい?」

 俺達はベランダに移動する。ここなら周囲の目を気にせず会話できる。村上は抵抗する気力は無くなったようで、大人しく伊藤に水泳バックを渡している。


「はい、前田さんの水着ね。名前が書かれているわ。なんで村上さんが持っているか教えてくれる?」

「…… たまたまよ。落ちていたから拾っただけ!」

「プールバックが偶然落ちていたから拾ったということか? その割には焦っていたようだが」

「そうよ! おかしい? 偶然拾っただけよ。私が焦ったのは前田さんの水着を盗んだ犯人にされると思ったからよ。普通でしょ?」

「なるほど、前田の水着を盗んだ犯人にされると思った、か。聞いたか、伊藤?」

「ええ、ばっちり聞いたわ。録音もしてあるから大丈夫よ」


「何? それがどうしたの?」

「なら聞くが…… 村上はいつ、前田の水着が盗まれたのを知ったんだ?」

「それは…… この前休み時間に話していたのを聞いたのよ」

「それはないな。俺は前田にこの件については口外しないように依頼していた。野口には話したらしいが、学校の帰り道の話らしい。さて、いつ聞いたのかもう一度言ってくれるか?」

「……」


「お前は前田と同じプールバックをもう一つ用意したんだ。後は簡単だよ。昼休みの掃除の時間に、机を動かして2人の机が近づいたときにプールバックをさりげなく交換し、前田のバックを村上の机にかける。そしてそれを堂々と持ち帰るわけだ。

自分の使用した水着やタオルは小さくしてリュックサックの中に入れておいたんだろ? それも探せば見つかるだろうな」

「……」


「まさかこんな大胆にすり替えるとは誰も思わないからね。盲点をついたトリックだったよ。でも同じことを2回しようとするのは失敗だったな。おかげで現行犯として確保することができた」

「あーあ、バレちゃったか。しかしバレるとは思わなかったなあ。川崎君あたりに押し付けられると思ったんだけどなあ。参ったよ」

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