第15話 ある生徒の独白

私は前田葵という女が好きではない。いや、嫌いだ。どうして神は不公平なのだろうか? 顔、性格、スタイル、頭脳…… 私が欲しいと思うものを全て持っている。どうして神は私には分け与えてくれなかったのだろうか? 少しくらい譲ってくれてもよかったと思うのだが……


 小学生の時は、他人に嫉妬することはなかった。友達と外でボール遊びをしたり、一緒に宿題をしたり、ビデオゲームをしたり。毎日を楽しく過ごしていた。足が速い子はモテるというところはあったが、それくらいだ。人生で1番穏やかな時間を過ごしていた。


 中学生になり、少しずつ他人と比較する気持ちが生まれてきた。隣のあいつは私よりも成績が良い、前のあいつは私よりも顔が良い……私は劣等感で常に押しつぶされそうな感覚があった。一度気になり出すと止まらない。特に努力ではどうにもならない部分で劣等感を感じるのが堪らなく辛かった。顔で比較しても顔を改善する方法はないのだ。整形をすれば良いのかもしれないが、中学生にそんな勇気はない。諦めるしかなかった。


 中学校では勉強を一生懸命した。努力すればするだけ結果が出たのが楽しかったからだ。私は夢中になって勉強した。そして、その結果として今の高校に入学することができた。学校創設以来初めて合格した生徒だ、と担任の先生に言われた時には嬉しかったものだ。


 しかし私の自信は高校に入って消滅した。普通の中学校で1番、なんていう肩書きは何の役にも立たない化け物達がたくさんいたわけだ。一生懸命勉強しても取れない成績を軽々と取っているクラスメイト達。それも部活を全力でした上での結果だ。睡眠時間を削って努力しても私の成績は平均点。自分は凡人であることを痛感した。


 そして前田はその中でも特別だった。どの授業でも先生の質問に窮することはない。どんな友達の授業に関する質問でもスラスラと答える。そしてちらっと見えた答案用紙には私が取ったことのない点数が書かれている。「私、一回説明教科書読めばなんとなくわかっちゃうタイプなんだよね」そう友達と話しているのが聞こえてきたことがある。ああ、これが天才か。私はそう感じた。


 しかも頭脳だけではない。部活でもレギュラーで運動神経も良い。体育の授業ではいつでも活躍している。球技でも水泳でもマラソンでもスポーツならなんでも注目を集める存在だ。


 それに加えて顔が良くてスタイルも良いのだ。私も何回か生徒が告白しているシーンを観たことがある。本当の意味で全てを兼ね備えた人間なのだろう。私にはないものを全て持っている女だ。


 私の想いは完全なる嫉妬であるだろう。それは否定しない。ただ、だからと言って私のこの想いを押し潰さなければならないわけではないだろう。せめて醜い男子の餌になればいい。それが私の少しのストレス解消である。どうせ完璧な人間だ。多少何かあったところで笑って済ませるだろう。


 男というものは性欲の塊だと聞く。クラスでも男が話すくだらない下ネタを耳にすることがある。「前田さんは凄すぎて興奮しない」などと言っているクラスメイトもいた。くだらない話だ。どうせふとしたことで欲求の対象になるのだろう。そう考えると楽しみである。

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