第35話 平和な日々

その日から夏休みまでは平和な日々が続いた。少し話題になったことと言えば、前田がまたスカートに戻したことくらいか。

「やっぱスカートの方が可愛らしい気がすると思わねえか?」

「まあ、そうだな」

 阿部が懲りずにその話を始めたので、一応付き合う。前回同様の展開にならないように発言には気をつけないと。阿部がどうなっても構わないが。

「流石、どっちも似合うね。まあでも僕は美人系より可愛い系の方が好きだから恋愛的な興味はないけどね」

 山田が会話に参加するのも同じ展開だ。やれやれ。

「そういえば、山田って最近村上と仲良いらしいな?」

「うーん。そうかな。まあ仲が良いといえば良いかも? というレベルだね」

「夏休みはどっか遊びに行ったりしないのか?」

「うーん、特に夏休みの話はしてないなあ。夏休みに遊ぶってちょっとハードル高くない?」


「確かにそうだな。阿部は何か夏休みは予定あるのか?」

「いや、お盆に祖父母の家に泊まりにいくくらいだよ。今年も女の子と遊ぶ予定なんかゼロだ。山田、なんとか助けてくれないか?」

「僕より今井くんの方がいいんじゃない?」

「なんでだ? 今井は俺の仲間だろ?」

「そっか、そうだね」

 明らかに前田の件をいじってきているが、何かを言うのはリスクしかない。俺は黙って話を聞き流すしかない。

「ああ、伊藤がいるか。伊藤とは夏休み遊ぶのか?」

「ないない、俺も特に夏休みの予定はないが」

「やっぱり仲間だな。今年の夏は一緒に頑張るか? ナンパしてみるとかどうだ?」

「絶対相手にされないからやめておこう。まだ山田に紹介してもらう方が現実的だ」


「そっか。なら今度バイト先の後輩を紹介しようか? フリーの子は1人しかいないから…… 2人の写真見せてみるよ」

「おお! それは助かる! 流石山田だ」

 そんな話をしていたらチャイムが鳴ったので俺達は席に戻る。今回は特に失言はなかったはずだ。誰かに怒られることはないだろう。


「ねえ、今井くん。ちょっといい?」

 次の休み時間に話しかけてきたのは野口だ。

「ああ、どうした」

 そのままベランダに連行される。何かやらかしたか?

「ごめんね、休み時間に。なんか、なかなか葵が教えてくれなかったんだけど水着の件と盗撮の件、どっちも今井が解決したらしいじゃん。ありがとうね」

「まあ、俺と伊藤だけどな」

「伊藤さんにも後でお礼言わないと。とりあえず葵もすっかり元気が戻って、楽しそうに過ごしているよ」

「それは良かった。役に立てて何よりだ」


「けど、よく犯人見つけたね。どうやったの?」

「ああ、それはな……」

 俺は犯人を誘き寄せる手口を説明した。

「なるほどね。今井くん頭いいんだね」

「偶然の閃きだ。また同じことがあったらどうなるかはわからないぞ」

「何もないことを祈りたいけど、また何かあるかもしれないからね。で、こっからが本題なんだけど、葵についてどう思ってるの?」


「どう思ってるとはどういう意味だ?」

「一緒に遊んだりとか、電話したりとかしてるらしいじゃん? それに一緒に下校している所も見たよ。葵のことを好きなのかな、って」

「ああ、まあ事件関係でな。ボディガードのようなものだよ。そういう意味ではないぞ」

「ふーんそうなんだ…… まあ任せるけど変にちょっかい出すのは辞めた方が良いよ? 葵のファン達に怒られちゃうからね」

「ああ、そこは気をつけているよ。事件も解決したし、これからは今まで通りの関係だろう」

「それは…… どうかわからないけど。とにかく葵と仲が良いのに、他の女の子とも遊ぶなんてことはしちゃダメだからね? さっきも山田くんのバイト先の後輩紹介してもらうとか言ってたでしょ。ああいうのが1番問題だよ」


「ああ、それはダメなのか」

「葵をキープして他の子を探しているみたいに見えるからね。気をつけてね?」

「なるほどな。わかった。気をつけるよ」

「後…… 私からのアドバイスだけど、もし夏休みどこか一緒に行きたいなら自分から誘うようにしなよ? そういうのは男がリードするもの、って決まってるんだからね」

「そうか、わかった。野口は山田から誘われたのか?」

「誘われるわけないでしょ、ってなんであんたが知ってるのよ」

「皆知ってると思うぞ。有名だよ。頑張って声かけてみたらどうだ? それか俺が手伝ってやろうか? 前田と遊びに行く約束をして、山田も連れて行くこともできると思うぞ」

「うっさいなあ。放っておいて。私のことは大丈夫です!」

 野口の機嫌が悪くなってしまった。そろそろ撤退するとしよう。

「あ、ちょっと待って。それはありかも。でも山田くんからしたらなんでこの組み合わせってならない?」

「大丈夫だ。俺と前田が遊んでいた時に山田には会っている。今更だよ」

「そっか。もしかしたら…… お願いするかも。ちょっと考えさせて」

「ああ、わかった」


俺は教室に戻り自分の席に座る。しかし山田は村上のことが好きなのだろうか? 今の所そこまで、という口風だったが…… 野口と村上ならどっちがタイプなんだろう。今度バイトの後輩の話から探りを入れてみるか。

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