第39話 野口との遭遇

無事に目的を達成したので、後は少しフラフラして解散しようという話になる。ショッピングモールを歩くと意外と色々な店があることに気づく。

「あそこの店、ガチャガチャ専門店だって! そんなお店あるんだね」

「大人の客が多いな。今のガチャガチャは結構大人に人気なのかもしれないな」

「ね。私は、子供の時に親にお願いして回した記憶しかないけど、今は色々な種類があるのかもね」


「あ、こんなところにあるんだ」

「これはなんだ?」

「美容器具だよ。こういう機械を顔に当てて、肌を綺麗にするんだ。最近人気なんだよ」

「そうなのもあるんだな。持っているのか?」

「いや、すごい高くてね。いつか欲しいなあーっていうくらい」

 何気なく値札を見ると数万円台から高いのだと10万円を超えている。確かにこの金額だと高校生や大学生レベルでは購入するのは難しいかもな。金持ちのマダムが使う機械なのかもしれない。


「あ」

「葵ちゃん! と今井くんじゃん。美容器具なんて見て何してるの?」

 そこにいたのは野口だった。1人でショッピングモールに来ているようだ。

「いや、ブラブラしててね……。涼子ちゃんは1人?」

「うん、部活休みだし暇つぶしに服でも見ようかな、と思って。こんな場面に遭遇出来るとは思わなかったよ。何してたの?」

 野口はニヤニヤしている。いくらこういう経験がない俺でも、こういう時に遭遇する相手としては1番気まずいということは理解できる。


「いやさ、事件解決してくれたじゃん? で、そのお礼を買おうと思ってね……」

「それなら1人で買いに行けばいいじゃん? 今井くんと一緒に行く必要ないんじゃないかなあ?」

「どんなのがいいかわからないでしょ? だからお願いして来てもらったんだよ、もう」

「そっか、ごめんごめん。なるほどね」

 恥ずかしそうにしている前田とニヤニヤしている野口の構図が続く。ここは前田のフォローではないが、ちょっと助け舟を出してやるか。


「そういえば、野口。前話していた山田と遊ぶ件、どうする? 話を進めるか?」

「な…… いきなりだね」

「それ何?」

「ああ、野口が山田と遊びたいらしくてな。流石に2人だと緊張するというから俺と前田がついていこうかという話をしていたんだ」

「そんなこと言ってない!」

「ああ、そっか。涼子ちゃんがついに動き出すのかあ。いいよ、協力してあげる」

「いや、まだ遊びに行くと決まったわけじゃないけど……」


「今井くん、どういう遊びがいいかな?」

「まあ最初だし、普通に食事とかがいいんじゃないか?」

「そうだね。でも普通にご飯食べるのも面白くないから…… BBQとかどう? 夏といえばBBQ! 協力して火を起こしたりして盛り上がること間違いなしだね!」

「おお、BBQいいな。川沿いの涼しいところでのんびりするのも良さそうだ。ということでどうだ野口?」


「ちょっと考えさせて……」

「いや、もう決定だよ! 今井くんは山田くんを誘っておいてね。日程調整とかはまた後でしようね」

「本当にするの……? ええ……」

「大丈夫だよ。こっちで計画練っておくからね。2人っきりになれるようにしてあげる! じゃあまた明日ね」

「う、うん。また明日……」

 真っ赤な顔で立ち止まる野口を置いて立ち去っていく前田。俺はその後を追いかけた。


「今井くん、ナイスだよ。これで涼子をやり込めるネタが一つできたね。楽しみだなあ」

「野口は普段は元気いっぱいという感じだが、山田の話になると乙女だな。意外と奥手なのか?」

「意外も何も、奥手だよ。いっつもあんな感じでうだうだしているからね。たまには崖から突き落としてあげないと」

「そういえば山田って村上と付き合ってないのかな?」

「付き合ってないらしいよ。前の時は村上さんから声をかけたらしい。だからそこは大丈夫」


 前田は楽しそうだ。他人の恋バナは楽しい、ということだろうな。俺は山田の了解を取り付けなければいけないわけだが…… 大丈夫だろうか。山田に断られることが心配というよりもそもそもあいつの夏休みの予定が全くわからない。部活に入っていないのでアルバイトばかりという可能性もあるな。そのあたりは後で聞いてみるしかなさそうだ。


「BBQやるとしたら昼かな? それとも夜の方がいいかな?」

「昼は暑すぎる気がするな。夜の方がいいんじゃないか?」

「そうだね。でも夜だと一泊することにならない?」

「まあ16時くらいに初めて20時くらいに撤収すれば大丈夫なんじゃないか? 近くで出来る場所が無いか探しておくよ」

「ありがとう。楽しみだね」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る