第40話 猫カフェ

「まだ解散には微妙な時間だね。もうちょっと遊んでいかない?」

 スマホを見るとまだ14時30分だ。確かに解散には少し早いし時間に余裕はあるな。

「いいぞ、何しようか」

「今行きたい場所があるんだ。猫カフェなんだけどね。猫は大丈夫?」

「ああ、大丈夫だ。行こうか」


 ショッピングモールの3階に猫カフェはあった。多種多様な猫と触れ合えるスペースだ。時間制になっており、30分いくらで請求される仕組みになっている。

「わー猫がいっぱい。猫好きなんだよね」

「犬より猫派か?」

「うん。なんかこう、ツンってしている感じが可愛いんだよね。いつか飼ってみたいなあ」


 お店の中に入ると、色々な猫がくつろいでいる様子だ。中途半端な時間だからか客は少ない。とりあえず近くの猫を撫でようとしゃがむが…… すっと逃げられてしまった。

「ふふふ、上から急に撫でようとするとびっくりしちゃうからね。しゃがんで目線を合わせてから手をそっと出してあげるんだよ」

 前田は上手く猫を触っている。俺も言われた通りに目線を合わせて触ってみると、猫は大人しくしていてくれた。おお、もふもふしていて気持ちがいいな。


「気持ちいいね。もふもふだよ。抱きしめたいね」

「ああ、これは気持ちいいな……」

 白い猫や黒い猫、大きな猫から小さい猫も多様な猫がいる。次はどの猫を触ろうか…… そう考えていると一際大きな猫が目に入った。明らかにここのボスという風格をしている。近づいてみても完全に無視を決め込み、目を瞑っている。そっと触ってみると…… 少しだけ目を開けたが、何事もなかったように目を閉じた。

「なかなか神経が図太い猫だな」

「ふふふ、今井くんみたいな感じかな? いつも穏やかな感じ」

「俺はこんな感じなのか? ちょっとショックだぞ」

「冗談、冗談。こんなグデーッとはしてないもんね。あんまり他人を気にしてない感じは似てるけどね」


「そういうことを言うなら俺も前田っぽい猫を探すか。お、この猫なんてどうだ?」

「どのあたりが似ているのか教えてくれない? というか、私あんまり猫っぽいって言われることないんだよね。どっちかというと犬っぽいって言われるかも」

「そうだな、確かに犬っぽいかもしれない。猫みたいにツンとしている感じはないもんな」

「うん、そういうキャラではないよ。ご主人様―って尻尾振りながら近寄っていく感じの方が私っぽい気がする」

「確かにな。前田は明るいしな。ツンデレという感じでもなさそうだ」

「猫だとツンデレっぽいもんね。そういう感じではない……よ?」


 一通り猫とのコミュニケーションを満喫した俺達は猫カフェから撤退した。

「いやあ、楽しかったね」

「ああ、猫と触れ合うのがこんなに楽しいとは思わなかったよ」

「ね、猫は可愛いね。さて、じゃあ帰りますか」


「なあ、今日1日感じていたんだが…… やたら色々な人からの視線を感じないか?」

「ああ…… うん、私のせいだと思う。色々な人から見られるんだよね。やっぱ美人だからかな?」

「ああ、そうじゃないか。学校外でも注目されるんだな。アイドルとか目指してみたらどうだ? 今の技術なら音痴でもなんとかなるだろ」

「いいかもね。東京ドームでセンターになって歌うんだ。で、生歌があまりにも下手でびっくりされるんだよね。音痴すぎるアイドルで話題になろうかな。まあでもそういう仕事は向いている気がしないんだよねえ、本当に。もっと可愛い人なんていくらでもいるだろうし」


「まあ上を見始めたらキリがないからなあ」

「そこは前田が世界で1番可愛いよって褒めてくれるところじゃないの?」

「ああ、俺の世界ではそうだが、まだ見ぬ世界にどんな人がいるのかわからないからなあ」

「……何それ。褒めてるのか褒めてないのかはっきりしてよ」


「まあでもSNSでインフルエンサーとかやってみるのはどうだ? フォロワーが増えれば宣伝の依頼がきて、お金も入ってくるらしいぞ」

「インフルエンサー見たことある? 皆美人でスタイル良くて…… あの世界で人気になれる気はしないよ。しかも水着の写真とかあげないといけないんだよ。恥ずかしいよ」

「そうなのか。SNSは疎いからよくわからないが……」

「まあインフルエンサーになれそう、という今井くんからの褒め言葉として受け取っておくよ」



 そんな話をしながらショッピングモールを後にする。すぐ隣に駅があるので移動しやすいのが良い点だ。俺と前田は別の路線になるため駅で解散になる。

「今日はありがとうね。アロマ使ってみてね」

「ああ、楽しかったよ。使わせてもらう。ありがとう」

「じゃあね!」

 そういうと前田は駅の中に消えていった。

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