第37話 ショッピングモールで買い物
日曜日の朝、時間通りにショッピングモールの入り口に向かうと、前田は既に待っていた。
「あ、おはよう」
「おはよう。ちょうどオープンの時間か。行くか」
「そうだね。今日は誰とも会わないといいね」
「まあ、大丈夫だろう。皆部活しているんじゃないか?」
「そうだね」
前田は今日はグレーのTシャツに黒のスカートというシンプルな格好をしている。シンプルだがオシャレに見えるのは前田の才能だろうか?
「とりあえず、どういうのがいいか一階から見て回ろっか」
「そうだな。俺も全くわからないんだよな」
「言ってたね。あ、アクセサリーとかはどう?」
「付けたことないな……」
「そういえば付けているイメージないね。とりあえず見てみようか」
まずアクセサリー屋を訪れる。男用のアクセサリーも売っているが、数は少ないな。そしてネックレスや腕輪などを見てみるが……正直ぴんとこない。
「うーん。正直今井くんとアクセサリーはあんまり似合わないね。もうちょっとヤンチャそうな感じじゃないと」
「そうだな。俺みたいなタイプがつけているものではなさそうだな」
あ、これなんか前田に似合うんじゃないか? 目の前にあるハートのネックレスを何気なく手に取ってみる。値札に25,000円と書いてあり俺はそっと戻した。本人に声掛けてからではなくてよかった。
「うーん、次は何にしようかな。あ、オシャレは好き? ファッションとか」
「好きという程ではないが…… 勉強中だな」
「そうなんだ、偉いね。確かに今日もちょっと拘った感じの服してるもんね。でもこれ、伊藤さんにでも選んでもらったでしょ?」
「……なんでわかった?」
「やっぱりね。チョイスが女の子が考える爽やかな男の子、って感じだもん。お母さんではわからないし、同年代の女の子が考えたんだろうな、って」
「なるほどな。正直にいうと服は全くわからないから伊藤に何着か見繕ってもらったよ」
「まあ普段制服だし、服については考えることないもんねえ」
「時間もあるし、服も見てみようか? 流石にプレゼントだとちょっと違う気がするから良さそうなものを私が選んであげるよ」
「助かるよ。……あんまり金がないから安いのだと助かる」
「ふふ、そうだよね。わかってるよ」
近くにあった前田曰く「大学生御用達」のお店に入る。そこそこの値段でそこそこお洒落な服を買うことができる店らしい。真剣な顔で精査する前田。一着一着チェックしているが…… 俺にはどれが似合いそうかは全くわからない。伊藤といい前田といいなぜ他人に似合う服をチョイスできるんだろうか?
「じゃあこのあたりの服着てみてくれる?」
試着室で着て、前田に見せて評価してもらう。中々厳しいチェックで、お眼鏡にかなう服は1着しかなかった。
「これがいいと思うよ! どうかな? 派手すぎず地味すぎず、いい感じだと思うんだけど」
おお、これが服が似合うということか。感覚的に少しその言葉の意味が分かった気がする。だからと言って自分で選べるとは思えないが。
「確かに。これは買おうと思う。ありがとうな」
「なあ、俺も前田の服を選んでみていいか?」
似合う服かどうかの判断をする能力を身に付けたいという欲求が湧いてきている。ここはいいチャンスだろう。
「え、いいけど……」
少し戸惑い、恥ずかしそうな様子の前田。確かに自分の服も選べないやつに服を選ばれるのはちょっと困るよな。買う側の視点を見落としていた。
「あ、別に買わなくていいぞ。単純に見てみたいだけだからな」
「わ、わかった。じゃあいつも行っているお店でいい……?」
ということで、同じく1Fにある女性ブランドの店に行く。よくわからないが華やかでいい匂いがする空間だ。様々な服が並んでいる。俺は真剣に一着一着チェックしていく。時々前田を見ながら想像してイメージを膨らましていくのだが、前田は少し恥ずかしいようで顔を赤くしている。ジロジロ見ている訳ではないから許してほしい。俺も真剣なんだ。
「これとかこれはどうだ?」
俺が選んだのはピンクのワンピースと、赤のポロシャツにショートパンツの組み合わせ。
「なかなかすごいチョイスだね…… 着た方がいい?」
「ああ、一度着てみてくれ」
まずはピンクのワンピースだ。試着室から出てきた前田は首を傾げている。
「うーん、なんかちょっとふわふわすぎる気がしない? 中学生みたいに見えるね」
「確かに…… ちょっと違うかもしれない…… とりあえず切り替えて次の服いってみよう」
出てきた前田は笑いを堪えている。俺も驚きで目が丸くなった。
「こっちは…… 似合わなすぎるよ! こんな格好で外歩けないよ!」
びっくりするほど似合っていない。何が変かがわからないくらい変だ。どうしてこれが似合うと思ったんだ俺は?
「あー面白い。記念に写真撮っておくね。こんな服着る機会ないだろうから」
「まあ…… 初めての試みだったからな。難しいな。勉強しておくよ。とりあえずその服は買わなくていいからな……?」
「買わないよ!」
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