第27話 きまりは、てきとう?

「ここは、私たちだけでと思っていたんだけど、無理でしょ。だから、お手伝いしてもらえると嬉しいんですが」

 モモによれば、リルラは、実際に水田を目にするまでは、どこか半信半疑だったらしい。

 自分のようなものが、お方様のお手伝いなんてできるはずがないと信じ込んでいた。 

夫のこともあり、罰としてただ働きさせられるのでは、とも思ったそうだ。

それが、館内に部屋が与えられたことで子供と手を取り合って喜んだらしい。もっとも館内に住むのは、新しい家ができるまでという条件付きだが。


ちなみに、リルラ達に与えられた部屋は、モモの部屋だった。モモはというと、シロイチの部屋に押しかけている。

二人のことについてもリンは口出しをしないことにしていた。まあ、見ていてほほえましいカップルではある。


 水田は、リルラの家族が手を貸してくれても、まだまだ足りないのは明白だ。

「できれば生活保護みたいに使いたいのですが、だめでしょうか」

「そうだね、それはいいかもしれない。それなら叔母上の下さった水田も畑も無駄にはならないね」


 リゲルはリンの頼みにノーを言うことがない。もしかしたら何も考えていないのかもと思うことも多い。

「リルラのご主人の話なんですけど」


 殺人事件がこの国で起ったのは五十年ぶりだった。それもあってリゲルはちゃんと覚えていた。

「人を殺したら死罪、だけはどうにもならない。嫌なことだけど、そうでなければ民が復讐に走ってしまう」

 つまり国が処罰しないなら、自分で仇をとると思うものが現れる。そうなると際限のない殺し合いが起こってしまう。


「それはわかりますが、想像してなかったことなので、ちょっと衝撃を受けてしまいました」

「あと許されないのは、盗む、騙す、犯す。かな」

「え、どれも首を斬られるんですか」

「まさか、それは厳しすぎるでしょ、弁償と期限を決めてただ働き」

 なるほど、一応納得はいく。まあ女性のリンからすれば、犯すは首を刎ねてもいいと思うが。


「でも、誰が犯人を見つけるんですか」

「村人。だいたい彼らが騒がなければ事件はない。殺人は別だけどね」

「裁判はどうするんですか」

「基本は村人が決める、最後は神に尋ねる」

 そこでリゲルは大きく息をした。

「つまり、私の仕事だ。リルラの夫の件も私が裁いた」


 リゲルは思い出したのだろう何とも言えない表情をした。

 そうなのだ、領主になるということは、そう言った辛い仕事もあるということなのだ。

「村人がリルラたちの一家に対して、どうも、ひどい仕打ちをしていたらしいのですが」

「そう言ったことを、してはいけないと言っているのだが、人間というのは」


 もうひとつ言わなければならないことがある。

「村長は、どうやって決めるんですか?」

「村人が話し合って決めることになっている」

「村長が、リルラに対して、生活を助ける代わりに、その」

「そうか、普通は人格者が選ばれるはずなのだが、何らかの対策対策をとるように達しておくよ」 


 まあ人は変わる、あの村長にしてもいいとこはあるのかもしれない。でも、それを使って、困っている女性を、というのは許せなかった。

 リゲルにとってはつらい話ばかりのようでリンは申し訳ない気がしてきた。


「ついでに教えてください。この国の書類とかの行政は誰が? そういう役人を見ていないのですが」

「ほかの国にはあるんだけれど、この国にはない」

「ええ! それじゃ法律とかは」

「ない、全部、神様が覚えてられる」

「それじゃ、神様とお話ができなくなると」

「うん、この国は成り立たない」

 ありえないと思った。神の仕事、つまりリゲルのやることが多すぎるのでは。リンは、自分ができることは助けなきゃと心に決めた。


「だからさ、後を継ぐ人がいなくなったら、この国は、ね」

 来たお妃の務め、世継ぎを生むことだ。

「あの、私が子供が産めなかったら」

 側室が現れるのか。仕方がないかもしれないけれど、それは考えたくなかった。

「ああ、心配しなくていいよ」

「誰か、ちゃんと神と話すことのできるものが現れるから、その人が仕事を受け継ぐだけ」

 そんなアバウトなことでいいのか、でもそれじゃ、自分が嫁に入った意味がどこにあるのか。

 でも過去にそう言ったことが数回あり、領主が変わっているということだ。


「跡継ぎだけのために結婚なんてしない、神は君がこの国になんかの役に立ってくれるから選んでいる、もちろん跡継ぎづくりはしたいけどね」

 さらっときわどいことを言われ、リンは体がかっと熱くなった。

「お風呂入ってきます」

 今日も夜は熱くなりそうだった。




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