第10話 名人

 マイの家は小さなログハウスのような、丸太を組んだ家だった。領内では一般的らしい。

「とてもお方様に入っていただけるような家じゃありません、お母さんと、おじいちゃんを呼んできますので、しばらくお待ちいただけますか」

 まだ若いのにきちんとした言葉を使う、基本的なしつけは行き届いているのだ、なおさら学校に行かせてやりたいと思う。


 マイに似た感じの中年の女性とおそらくリンの父親ぐらいの年齢の男性が、外をうかがうように現れた。継ぎの当たった衣装は貧しいが、小ざっぱりとしている。

 二人はリンを見ると驚いた表情を浮かべ、慌ててその場に跪こうとした。

 ジュネがそれを制し、そのままでと声をかける。うん、彼女は物分かりがいい。


「このようなむさくるしい場所に、お方様がおいでになるとは、マイが何かしでかしましたでしょうか」

「違います、あなたの家の畑が素晴らしいので、どのような人が作っているのかと思って、あとマイちゃんがきちんと育っているのでどのような育て方をしているのかと」

「もったいないお言葉、ありがとうございます」

 祖父と母親はその顔に喜びを浮かべ、膝をついて、礼を述べた。


「お名前を教えてくれますか」

 祖父はベグ、母親はペジーと名乗った。

「じゃあ、ペグさん、何かあの麦づくりには秘訣はあるのですか」

 ペグの言うには、特に何もないという。耕して、肥料を入れ、常に手をかけている。それだけだという。


「ほかの皆さんはそこまで手をかけていないということですか?」

「みんなも同じようにはやっているはずです、ただ、魔王との戦いで、年寄がなくなったというような家もあり、コツが伝わっていないような。それとすべての土地が麦に向くわけでもありませんので」

 それはリンもわかる、有機の農法はその土地土地で異なるのだ、すべて同じやり方、同じ作物がうまくいくとは限らない。


「それでも麦が一番金になりますし、麦がなければパンも」

「わかりました、お金になる作物、お金になる方法を考えます。それで暮らし向きがよくなればぜひマイちゃんを学校に通わせてあげてほしい」


 ペジーが困ったような顔をした。

「学校に行かせてはやりたいのですが、よその国まではとても、それにお金も」

 リンもそうだろうと思う。

「私が、この国に、無料の学校をつくります、そのためには皆さんにもう少しお金持ちになってもらわなければ」

「ベグさん、あなたの知識を、みんなに教えるような学校も作りたい、協力してもらえますか」


 今夜にでもリゲルに頼もう。彼に意見も聞かなきゃ。慌てることはない、みんなの都合もあるだろう。

 思いつきだけで簡単に行くなら、今までに誰かがやっているはず、きっと難しいこともあるに違いないけれど、せっかくこの国に呼ばれたのだ。


「リン様、終わりました」

 空からシロイチの声がした。

「終わったって何が」

「なにって命じられた草取りです」

「あの土地全部?、この時間で、ちゃんとやった?」

「やだなあ、心配なら見てくださいよ」


「ありゃ、すごい、雑草が一本もない」

 シロイチの言うとおり麦畑には雑草が一本も残っていなかった。

「シロイチあんた何やったの」

「普通に草を抜いただけです、ただ手下を使いましたけどね」

「手下? あんたそんなのいたの?」

「まあ、鳥なら使えますから」


 そうだった、カスとは言え、魔王の手下だった、それなりの力があっても不思議ではなかったのだ。

「でも、カスのあんたでさえ」

「だからリン様そのカスってのは」

「ごめんごめん、でもあなたの仲間をこっちに引き込むことができれば」

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