第11話 叔母上

「うん、他はいいけれど、魔王の手下はどうだろう、危険すぎない?」

 リゲルに相談したら、彼は心配げに答えた。

「やっぱりそう思う?」

 リゲルの提案で二人きりの時はタメ口で話すことになっている。


「シロイチもあまり乗り気じゃないからどうしようかとは思ったんだけど」

「でも、彼らの一部でもこっちに引っ張り込めれば、農業とかは楽になるよね」

 リゲルはリンのやりたいことには反対ではないらしい。


「そうか、叔母上にお願いしてみるか」

「叔母様?」

「うん、父上の妹君」

 初めて聞いた、親族はもう誰もいないのかと思っていた、なぜなら結婚式には誰の出席もなかったから。


「叔母上は、この館には入ることができないんだ」

 リゲルは少しばかり淋しげな表情を見せた。

「叔母上はは神に仕える巫女でありながら、魔王と契ったんだ」

「え、魔王って、その神が作り出された魔王?」

「うん、若気の至りで一目ぼれして、結局別れたんだけど。別れましたはいそうですかとはいかなくって、山におひとりで暮らされている」


 叔母上、ベガ様とおっしゃる方は、神殿の巫女として仕えていたが、十六の時に偶然魔王と出会い、恋に落ちたという。

 もちろん、魔王と人間、一夜限りの契りだった。それがギガ様の一生を変えることになった。

 ギガ様は神殿の域内である館には、住めない身体になってしまったらしい。


「そんな、お可哀そう」

「んー、別に叔母上は嘆いてはおられないみたいだけどね」

「でも、おひとりなんでしょう、寂しくはないのかなあ」

「その、魔王の力が体内に注ぎ込まれて、魔力で僕をを作り出して快適に暮らしておられる」


 漫画で読んだ陰陽師の式神のようなものか、何となくベガ様という方に興味がわいてきた。

「そのうち、お尋ねしようと思っていたんだ、君との結婚のこともあったし」

「今、リゲルはお館を離れられるの?」

「しばらくはだめだろうね、やらねばならぬことが。ジェネを連れてお尋ねしてくればいい」


 ということで、リンはジェネとシロイチを連れて、山に向かうことになった。

 山は、隣国タルシアとの間にそびえるミルン山地の主峰である。特に名前はなく山と呼ばれているらしい。

 その頂直下に、ベガ様の住まわれている建物はあるらしい。

 途中まではホルクが登ることのできる道が整備されているが、残りは歩きになるらしい。肯定として丸一日はかかると聞いた。

 それゆえにリゲルは一緒に来れなかったのだ。


 リンは山登りはあまり好きではないが、何とかなるはずと思っている。

 見送りに出たリゲルがしてくれた、おまじない代わりのキスがその原動力だった。

 着替えや軽い食糧、水を入れたリュック、それと弓と矢を携えたリンは、ファルコンにまたがった。


「ジェネはリン様にお会いしたことはあるの」

「はい一度だけ、おきれいで、気さくな方で」

「おらは、苦手だ」

「シロイチ、お会いしたことあるの」

「前にこっぴどく痛めつけられました」


 リンはなおさら、ベガという方に興味がわいてきた。







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