第2話 どうしてここに

 リゲルの領地はどれくらいなのだろう、全部を回ると、馬鹿車で七日はかかるという。

 そう言われると結構な広さだ。でもそこで気が付いた、ここの一日って?

 どう考えてもここは地球ではなさそうだ。一日が同じ長さとは限らない。

「凛さんの住むところと一緒ですよ、というかそういうことに気が付くんですね」

 リゲルはちょっと意外だというように凛の顔を見た。


「理屈っぽい女の子は苦手ですか?」

 自分が生きづらいのは、そんなところにも理由はあると、凛自身もわかっている。

「いいえ、私はどちらかというと勘だけで生きているので、凛さんがそうだと逆にうまくいくかも」

 リゲルはそういうと笑顔になった。その言葉に多分嘘はないような気が凛はした。


「あの、ここは何処なんですか」

 凛は基本的なことを尋ねた。

「あれ、タムは何も言いませんでしたか」

「タム? あ、その猫さんのことですか? ええ何も」


「仕方がないいなあ、使者のくせに手を抜いて」

「だってリゲル様からお話になった方が、会話も弾むかなって」

 タムの言い訳は当たってると思った。初対面の人と話すには話題が必要なのだ。


「ここは、シリウスの第四惑星です。あなたが住んでられた時間から見ると一万年ほど過去になります」

 普通は信じられない話だけれど、凛にはなぜかすんなり信じることができた。

「どうやって私はここに」

「それは死者には時間も距離もないからです」

「死者って、え、私」

「残念ながら、元の世界では亡くなっておられます」

 そっちは俄かには信じられなかった、なぜなら自分に死んだという感覚がないから。


 それよりも、もっと重大なことに気が付いた。もしかすると、こっちに呼ぶために私って殺されちゃったのか、ということ。そうだとしたら、許せない。しかも飽きたら殺されちゃうんじゃないかと。


「ちがいます、順番が逆なんです」

 リゲルは凛の瞳に浮かぶ憎悪と恐怖を敏感に感じ取った。

「神様にお願いして、寿命の付きかけた人から私に会う人を選んでもらったんですよ」

「ほんとですか」

「神に誓って」

 信じてやることにした。それほどリゲルからは悪意というものが感じられない。


「ってことは私はもうここ以外いる場所がないってことなの?もしかしたら」

「はい、だから、私とここが気に入っていただけるとありがたいのですが、お互いのために」


 そんな会話の間にも、馬鹿車は走っている、狸はなかなか操縦がうまい。

 畑らしいものは広がるが、人の住む家はない。

「あのう、領主さまってことは、領民の方もいるんですよね」

「いますよ、今、一万人ほどです」

 馬鹿車の速さから言って、リゲルの領地は日本のたいていの県ぐらいの広さはありそうだ。

 そこに一万人、そりゃ、人に出会わないのも当然だ。

「結婚式にはみんな来ますから、みんな凛さんに会えるのを心待ちにしてましたから」

「え、なんで私を」

「私の妻は領主の奥様、民にとってはとても大事な方だからです」

 私が、領民にとって大事なひと、今までの人生と比べて舞い上がりそうになるのを、凛は抑えきれなかった。

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