お姫様かと思ったら、戦って、耕して。それでも幸せ、かな

ひぐらし なく

第1話 夢の中から

 佐々木凛は、霞が関のある役所に勤務する公務員だ。仕事はきついし、彼氏はいない。そのくせ課に女性は自分含めて二人。

 このところ何か変な夢を見ているような気がして、睡眠不足。

 休みが待ち遠しい。


「こんばんは、昨夜の話考えてくれましたか」

 また来た、朝になったら忘れる夢。なんかうさぎか猫かみたいなのが、話にくる。

「ここでつまんないんでしょ、一緒に行きましょうよ。あなたを待っている人がいるんです、お金持ちでイケメンですよ」

 なんだ、その生々しい願望の夢は。


「夢じゃありませんてば、凛さんがウンていえば、それだけで人生激変、バラ色の未来が待ってます」

 なんか言い回しが古くないか、この、うーん猫だと思おう。

「そっちに行ったらこっちはどうなるの? 帰ってこられるの」

「それは、でもほら、凛さんにこっちにしがみつく意味ないじゃないですか。心配してくれる家族もいないし、彼氏も」

「かえれー」

「また来ます」

「もうくんな」


 なんかあの馬鹿猫のせいで寝た気がしなかった。

 重い足取りで改札を抜け、ホームに突いたとたん背中に衝撃を受けた。

 身体が傾いた先にホームはなかった、後ろで誰かの悲鳴が上がる。

 横を見れば、電車が目の前に来ていた。


「凛さん、電車来ますよ。うんって言ってくれればこの場からあちらにお連れします。それともこのもまま、何も楽しくなかった人生を終わらせますか」

 猫がいた。選択の余地があるわけはないのに、なんか腹が立つ。

「ほっとけよ、もういい、このまま死んでやる」

「だめだよ凛、こっちに来て僕と暮らそう」


 猫じゃなかった、憎たらしい猫を片手で抱いた男性が手を差し伸ばしている。

 逆光で顔はよく見えない、でも、声は好みだった。

 凛はつい差し伸べられた手をつかんだ。


 光と虹のトンネルを超えて、凛はいきなり草っぱらに着地した。というと聞こえがいいが実際は放り出された。

「痛ーい」

 思い切り腰を地面に打ち付けた凛は思わず叫んだ、タイトのスカートが太もものかなり上までめくれ上がっている。

「きゃ」

 思わず裾を直し、周りを見た凛は、あの猫を連れた男性が立っているのを見た。

 身長は百八十くらい、中肉中背長髪を後ろで結んだ、作務衣のような服を着た。顔は、目と鼻と口と耳がついている。造作は、んーイケメンではない。猫のやろう適当なこと言いやがって。

「でも不細工というわけでもないでしょ」

 猫が言う。


「大丈夫ですか」

 男性は手を差し伸べてくれた。甘くやさしい低音。それだけでこの人でもいいかなと思ってしまった。


「リゲルです。ようこそ」

「あ、凛です」

「まず、私の領地を案内しますね」

「え、あなたの領地ですか」

「はい、父がなくなり継いだばかりですが」

 そこは猫の話に嘘はないらしい。


 うーん、馬のような鹿のようなのような、一応、馬鹿となずけよう、が引く馬車が来た。馭者は、狸?


「えーっとリゲル様」

「リゲルでいいよ、なに?」

「ここに人間は」

「ああ、昔は多かったんだけど、今はすっかり減ってしまって」

「でも狸が」

「あ、それは魔法で」

「魔法、ですか」

「冗談。あなたのところにもサルが、芸をするってあるじゃないですか、出来ることを仕込んだんです」




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