第16話 いざ、魔を退治に
「ねえ、シロイチ、お酒好きの魔てどんな奴なの」
「え、酒好きの魔ですか、えーと、あ、はいはい、カスです」
「あんたと一緒ってこと?」
シロイチがむくれた。子供の姿になると前より感情がわかりやすく可愛い。
「冗談よ、あんたは私の大事な仲間」
シロイチがパッと笑顔になった、わかりやすい子だ。リンは姉のような気持になっている。
彼女は一人っ子ということで今の環境がそれだけでもうれしい。
「なんていうか、仕事をしないんです。酒と女だけが楽しみで」
魔がいる峠のある道は、ミルンに行くのに一番楽な道だ。通る人も多い。ただそれは荷物と一行に女性がいないという条件があった。
「それ以外のものは通ることができるんです。なぜかなあとは思っていたんですけど、そうなの、怠け者なのかぁ」
ジェネが呆れたように言う。
「つまり実害は、お酒の値段が高くなるってことだけ? 女性は別の道を通行するの?」
「そうなんです、だから誰も真面目に魔を退治する気にならなくて」
リンにもわかるような気がする、すべての通行が停まっているなら軍を投入するだろうが、お酒と女性だけなら確かに回り道をすれば済むだけだ、あえて危険を冒して魔と闘う必要もない。
「ただ、ふもとに広い土地があって、大昔には村があったらしいんですが、女性がさらわれるということもあって」
それは小さな国には大きな損失だとは思うが、アンジェルの人はあまり戦いを好まないということなのか。
まあ私も戦いなんて好きじゃないけれど、領主の妻としてできることはやりたい。
そしてなんとなくだけど、出来そうな気がしている。今までの人生からはちょっと信じられない、根拠のない自信を最近はもっている。
「お酒がいるなあ。どれくらいで作れるのかなあ」
「一か月もあれば作りますよ」
モモがこともなげに言う。
リンは大学で概要を習ったこともあり、理屈は知っている。が、実際に作ったことはなかった。酵母も探さなければと思っていたので、のんびり試行錯誤を繰り返すつもりでいた。
「ベガ様のところで色々つくってましたから、酵母もあります」
「モモ、すごい。じゃあお願い」
「俺は、俺もなんかやりたい」
「力仕事がいっぱいあるから、手伝って」
「そっか、任しとけ」
モモに言われて、シロイチは嬉しそうに胸を叩いた。
一月後、宮大工に無理を言って作らせた樽に、お酒を入れたリンたちは、山道を峠に向かって登っていく。
牛に荷車を引かせ、お供はジェネ、シロイチ、モモだけだ。
リンとジェネはスカート姿。ジェネのそんな姿は初めて見たが、びっくりするほど似合っている。
普段は編んでいる髪も、今日はリボンで結んでいる。見送りに来たリゲルが見とれていたのが、ちょっと面白くない。
しかし仮装コンテストなら一番はモモだ。今日は児童ではなく、娘の年恰好になっている。
「モモはそんなことができるのか?」
シロイチがびっくりして尋ねた。
「なにいってんのあんたもできるはずよ」
「え、知らねーよ俺」
「んー、っこっちに来て」
モモはシロイチの前にかがむと、唇にキスをした。
その瞬間シロイチは青年に変身した。急に大きくなったものだから服がはちきれてしまった。
「なにすんだよ」
真っ赤になったシロイチはリンの後ろに隠れてしまった。
「へえ、ちょうどよかった。あんた荷物を運ぶ青年役、その彼女がモモということにしよう」
「えーなんで」
二人で声をそろえたが、まんざらでもなさそうだとリンは思った。
「じゃあ、出発します、行ってきますリゲル様」
リゲルはいつものようお出かけのキスをしてくれた。なんだかそれだけで勇気百倍だ。
「リゲル様はよくお許しになりますね、リン様自らの出陣を」
「んー、なんか私もリゲル様も全く心配してないんだよね、優秀なあなたたちがいるからかな」
三人がそれぞれに照れている、三銃士か、あと一人見つけて四天王の方がゴロがいいなあ、そんなことを思いながらファルコンを歩ませている。
ジェネはブルーに、モモとシロイチは牛の曳く荷車に並んで乗っている。
何となくピクニックのような雰囲気があった。
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