第15話 売れるものを作りたい

 神殿の真ん中には大きな銅の鏡がおかれている。

 この国が生まれたときには、既にあったと言い伝えられてはいるけれど、本当のことは誰も知らない。当たり前だ、その頃に生きていた人は誰もいない。


 その長い間、磨いたこともないというが、表面は輝き、緑青も吹いていない。

 リンはご神体だと思っていたのだが、どうやら違うらしい。

 鏡は、神と通信を行うためのものだという。


 まさか鏡よ鏡よ鏡さん、という訳じゃないよね、リンはこころの中でつい笑ってしまい、そしてバチあたりだと反省した。

「お願い奉ります、これなるリゲルとその妻リン、この星の姿を見分いたしたく、御前に」


 鏡がだんだんと輝きを失っていき、代わりに、青い水に覆われた星が浮かび上がった。

「これが海の半球、そして、こっちが」

 リンは思わず息をのんだ

「パンゲア大陸」

 のはずはない、ここはシリウスの第四惑星、地球ではない。

 それでも鏡に映っているのは、ユーラシア、アフリカ、南北アメリカ、オーストラリア、南極が分かれる前の古代大陸が写っていた。


「ああ、その名前は、リンの故郷の星の大陸かな?」

「はい、大昔の、学校で習いました」

「どこも似たようなものができるんじゃないかな、ほら、私とリンも似ている」

「確かにそうだ、モモもシロイチも、ホルクも地球に似たような生物がいる」


 でもリンとリゲルは実はちょっとだけ違う、彼の心臓は右にある。胸に耳を当て眠った時に気が付いた。

 それにはリゲルも驚いて、ふたりで調べたら、内臓の配置がまるで反対になっていることが分かった。

 もちろんリゲルだけではない、クルムも、ジェネもそうだという。

 髪の毛の色もリゲルは緑色だ。リンのような黒髪はこの星にいないらしい。


「この端っこ、ここが、我々に住むところ」

 大陸の東のはての一角、そこがここ『アンジェル』らしい。

「ほらここが『ミルン』クルムの生まれ故郷だ、この海を渡ったところが『タルシア』だよ」

 タルシアには船で行くのか、それも初めて知った。


「お酒はどうとして、生の食品は売れないですね、おいしい野菜とかも考えたんですけど、果物、あ、ジャム。麴頂いたから、味噌とか醤油とか。あ、牛乳は。牛がいないか」

「いるよ、牛なら」

「え、食べるんですか」

「ほかの国はね、でもこの国は精霊を使うから、食べないんだ。でも牛乳と卵は食べるよ、だからクッキー焼いたでしょ」

 そうだった、確かに卵と牛乳を使った。


「魚は食べるんですか」

「食べる、鮭が国民のお気に入り。外国人も好きなんだけど、送れないから」

「塩鮭にしましょう」

「なにそれ?」

「干物、ないんですか」

 やることが多そうだ。チーズもヨーグルトもないらしい。

 聞くとお酒以外の菌をつかう食品はないらしい。乳酸菌もないのだろうか。


「ねえ、その貿易のことなんだけど」

 リゲルが申し訳なさそうに言う。

「水を差すようで悪いんだけど、ミルンとの間には山、反対には海、運ぶのに時間と手間がかかるよ、おまけに酒好きの魔がいるし」

 つまり貿易は大変ということか。そうだろう、そうでなければもっと貿易が発達しているはずだ。

 でもそれをクリアしなければ、学校を作ることもできない。


「まず、魔を倒しましょう。山は削れないし、海は埋められないけれど、魔なら」

 リゲルは一瞬絶句し、そして笑い出した。

「確かにそうだ。なんか君が言うとできそうな気がする」






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