第14話 館に戻って
お土産に、幾種類かの植物の種と球根、お酒用とパン用の酵母を何種類か貰って、リンは次の日の朝にベガ様の御屋敷を辞去した。
「あんた空飛びなさいよ」
「モモこそ、自分で歩けよ」
「まあ、いいんじゃない。ファルコン、シロイチぐらいは大丈夫だよね」
当たり前とでもいうように、ファルコンは「ケン」と鳴いた。
「モモの得意なことは何」
「え、得意なこと……。すみませんなにも、あ、お菓子と、お酒は造れます。ベガ様からこの一年位かけて教えていただきました」
それこそ今リンが最も欲しい能力だった。しかし一年前から、つまりリンがここに嫁ぎ、何をしようとしているかは、すでにお見通しだったということなのか。
ジェネがおそらくというように頷いた。
私は何をするために呼ばれたのだろう。リゲルの子供を生み、育てていく、多分それも望まれていることなのだろう。しかし、それだけではなくこの国の、もしかしたらこの星のために何か成すことが、リンは目の前に広がる荒野を見つめながら思った。
よし、まずは、作物を増やそう。生まれ故郷の星とは違うこともあるだろう、でも魔法が使えようが、鳥が子供になろうが、人は人、同じ生き物らしい。だからリゲルと抱き合えるのだ。
「この国に四季はあるのかなあ」
考えてみればそんなことも知らないのだ。
「四季ですか」
「えーっと、花の咲く時期、暑くみんなが開放的になる時期、涼しく作物が実る時期、そして雪に覆われる時期」
「あ、はい、言われるとおりの時期があります、四季といううんですね」
「春、夏、秋、冬って、私の生まれた所では言うんだ」
「はる、なつ、あき、ふゆ、ですか、いい響きです。国中に広めませんか」
「なんて読んでるの、うちの国では」
「この星全部そうですけど、一番、二番、三番、四番って呼んでます」
なんか味気ない、この国を作った神様は微妙にセンスがないような気がする。ま、それぞれ得て不得手があるのだろうけど。
門のところにリゲルがいるのが見えた。
え、嘘、どうして帰りがわかったの?
「わかるさ、神様が教えてくださった、門で待てば君が喜ぶよって」
確かにうれしいですけれど、そんな、些末な話を神様がなさるとは。
「嘘だよ、叔母上から連絡があったから、大体今頃だろうと思って出てきた」
「もう、びっくりしたじゃないですか」
「えーっと、シロイチとその子がモモかな」
「モモと申します、よろしくお願い申し上げます」
モモはブルーから飛び降りて片膝をついた。
「あ、そんな堅苦しい挨拶はいいよ、何となく叔母上に似てるね」
「はい、ベガ様はご自分の子供のころに似せられたと」
「ジェネもご苦労だった、まずはゆっくり休んでくれ」
ファルコンは厩舎、モモはリゲルが部屋を用意してくれていた。
それを見てシロイチが少し寂しそうな顔をした。旅の前は、彼は鳥だったので木にかけられた巣に住んでいた。
「シロイチの部屋はこっちですよ」
クルムが声をかけた。さすがリゲル、シロイチのことも考えてくれていたんだと思うと嬉しかった。
「この星って、どれくらいの大きさで、どんな姿をしてるんですか」
二人はベッドの上にいた。風呂から上がったリンを、待ちかねたようにリゲルが襲ったのだ。
もちろん襲われるのは嫌ではなかったが、まだ陽も高いのに、誰かが来たらと思うと気が気ではなかった。
でも考えてみれば、リゲルかリンが呼ばない限り、人はやってこない。
まだリンはここの生活に慣れてはいない。
「そうだね、明日でよければ、神様にお願いして、空からこの星を見せてもらおう」
「え、そらから?」
「あ、もちろん私たちが飛ぶわけじゃないから、楽しみにしておいて」
他にも聞きたいことはいっぱいあるけれど、明日にしよう。リゲルがもう少しベッドの上で戯れたさそうだった。二人は新婚なのだ。
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