第13話 よくはわからないけれど、まあいいか
「叔母上様……」
「その通りなんだけど、その呼び方は好きじゃないなぁ。ベガって呼んでくれる、リンちゃん」
「え、あ、はい」
後ろで、ジェネとシロイチが笑いをこらえているのが気配でわかる。
リゲルは私と同い年で、その御父上の妹だから十代ということが、ないわけではないけれど。
じゃあ何歳で魔王と契ったんだ。もしかして魔王はロリどころか幼児趣味なのか?
「私の成長が止まったの、魔王とやったから。まあそれが人生最大の失敗だったけど、別に後悔はしてない、あの人やっぱり素敵だから」
あの人というのはもちろん魔王のことに違いない。この星の人々の敵なのに、神に仕える家のものとしてはいかがなものか。
「納得いかないって顔をしてるなぁ、まあわかるけど」
ベガ様は手をパンパンと手を打った。ベガ様と同じような顔格好の女性が四人、お膳を持ってきた。
「ま、食べながら話そうか、そこの二人もこっちに来なさい」
二人? ジェネはどうとしてシロイチは一羽だろう。
「え、シロイチ、あんた、その姿は」
シロイチは十歳ぐらいの牧童の姿になっていた。
「いつまでも鳥のままじゃかわいそうでしょ」
「あ、ありがとうございます」
シロイチ自身がびっくりし、そして感激している。
「ああ、もちろん空を飛ぶことも、鳥を従えることもできるから、安心して」
「今の侍女たちも小鳥だよ、かわいいでしょ、私に似せたから」
ベガ様は、くすっと笑った。その顔はコケティッシュで、魔王が惚れたのもわかる気がした。
「魔王のこと、リゲルは何と言ってた?」
乾杯のあとでベガ様はいきなり切り出した。
「人々の争いを治めるために、神が」
「ああ、分かってはいるんだ、基本的にはそう」
「ただ、そんな都合で生み出された彼は、苦しんでいるの」
ジェネとシロイチは、聞こえないふりで料理を食べている。
「なぜ人は争うと思う」
急にそんな難しいことを言われても、リンは哲学の講義が苦手だった。
「金持ちになりたい、威張りたい、いい女、男が欲しい、いろいろあるけれど、食うためというのが大きな理由なんだ。食えなくなったら相手を殺して食うものを得る。神はここに楽園を作られた、ただ人が増えすぎるとどうなるか」
ベガ様の言うことは納得できた、つまり、人口調節も魔王の役目?
ならばこの楽園にとって必要な機能ということか。
「そう、彼はその役目を好んではいない」
「魔との戦いでひとがなくなっています」
「死んだところで、どこかで生まれ変わることができる、ただここからは追い出されるだけだ」
確かにリン自身が死んでここに生まれ変わっている。
「それに一部のものだけだが、魔王のもとで使われている。魔王の側近は私の四代前の先祖だ」
訳がわからなくなってきた。じゃあ、魔王と闘うのは。
「大丈夫だから魔王に殺されなさいって言ったら、ここに生まれた意味がないでしょ。魔王は人々が増えすぎない限り手を出さない」
じゃあ、神様は何のために祭られているのか。
「なんか頼るものがなければ、絶望するだけになるからかな」
つまり、魔王は憎まれ役で神様はかばう役ということか。
「魔王は休みたがっている」
「よく分かりません」
「もっと食べ物が増え、争わずにみんなが食べていけるようになったら、魔王の出番は減る、人口を調節しなくて済むから」
やっぱりよく分からない、結局自分は何をすればいいのか。
「今考えていることを進めなさい。食料をふやし、暮らしを楽にするのは、神も望まれていることだから」
そういうとベガ様はまた手を叩いた。
「さ、話おしまい、飲もう。待ってたんだリンちゃんが飲みにくるのを」
ベガ様はお酒が入ると陽気になるたちらしい。
魔王とのなれそめについてもあけすけに話してくれた。
ここの神様は女性神で、はっきり言って神としては未熟らしい。
魔王は本当は自分の伴侶として作り出したのだが、こいつがまた浮気者で、あちこち手を出したらしい。
それで、魔王が人に嫌われるようにということで人口調節という役目を押し付けた、さいきんはと言っても一万年ぐらい前の話らしいが、それを今は悔やんだみたいだが、神が決めた設定は取り返しがつかないらしい。
なんということだ、つまりは、神の都合でこの世界は……。リンは考えるのが馬鹿らしくなった。
「神様ってなんだろ」
「修行を積んだ、できのいい魂。だから、リンちゃんも頑張れば十億年ぐらい先なら神様になれるかもよ」
「じゃあ、神様は増え続けるんですか?」
「そうなんだけど、その先はわからない、魔王も知らないみたい」
要するに、みんな頑張って生きていく、ということなのか。
あ、そうそう、リンちゃんの手助けに、その子を遣わすから。結婚式のお祝い。
いつの間にかリンたちの背後に、ベガ様に面立ちの似た女児が座っていた。
「名萌はリンちゃんがつけてやって、ここの庭にいた子ウサギなんだ、きっと役に立つはずだ」
見た瞬間に名前は決めていた。シロイチに隣に座るとなかなかお似合いだ。
「あなたの名前はモモ、よろしく」
「俺はシロイチ、リン様の一番の家来だ」
「おい、一番は私だろう」
「あ、ジェネがいたか、じゃあ仕方ない、二番だな俺は」
モモはくすっと笑う、それを見てシロイチは頬を赤くした。
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