第34話 第一段階終了?

「みんなありがとう」

 リンは、人々を前に礼を言った。今日は稲の収穫のためにみんな集まってくれたのだ。


 自分たちで食べる分ならば、収穫したものを、すべて持って帰っていいということにしたが、どれだけの人が来るかは想像していなかった。


 多分、国中の家族が食べても足りるだけの量はあるはずだ。

 それ以外のお酒や煎餅などにする分は、自分たちで収穫するつもりだった。


 それが、みんなは自分たちで持って帰る分以外に、館に収める分と言ってすべての田んぼの収穫を終えてくれた。


 田んぼに、『はさ掛け』された稲が並んでいる姿は壮観だった。

 後は、それぞれ自分の都合で、もっていけばよいということにした。


 病気のもの、働き手がいないものについては、館の分から配ることにしたが、そのことについても、民からは文句は一切出なかった。

 ありがたいと心底思う。ここの人たちは助け合いで生きてきているのだ。恩は順番にという精神が、植え付けられている。


「お前は、この人たちの恨みを全部買うところだったんだぞ」

 ベテルがプリンに言う、諭しているのだが、決して責めているような雰囲気ではない。


「ごめんなさい。虫達にも食べさせなきゃならなかったから」

「いいのよプリン、雑草なら、それと刈り取った後のならいくら食べても」

「雑草かあ、もっといいものを食べたい」

 パーンという乾いた音がした。

「いったあい」

 ベテルがプリンの頭を後ろから殴った。

「おまえ、なんどいったらわかる、お方様に無礼な口を利くのは許さん」


「てへ、またベテルに叱られちゃった」

 周りにいたみんなが笑う。

「しっかり働いたら、お前たちの好きなものも食べさせてあげるから」

 実際、プリンたちの働きは大したものだった。国中の雑草は彼女とその配下たちが処理してくれたのだ。

 だからこそ多くの人々が、今日ここに集まれたと言える。そうでなければ自分の畑のことだけで手が回っていなかったはずだ。


「プリンは、ベテルが好きなんですね」

「モモもそう思う? 私もそうだと思う」

「でもベテルは」

「まあ、いいんじゃないの。この館では難しいことを言うのはやめましょ、あなたたちもね。すべてなるように任せます」

 なぜかシロイチが真っ赤になっている。


「リン様、リルラの家族がお目通りを願っています」

 ジェネだ。お目通りかあ、面倒だとは思うが、一線を引かなくてはならないのは仕方がないのかもしれない。


「どうぞ」

「ここでお世話になり、こうやって食べるものにも心配がなくなりました。心からお礼申し上げます。そのうえ、息子の学校のことお許しいただき、重ねてお礼申し上げます」


「仕事のことは気にしないで、ちゃんと田畑を見てくれていると報告を受けています。収穫物はあなたの権利です。ポクルのこと、あなたはいいの?」

「はい、あの子が望むことなら、なんでもかなえてやりたいと思います。その分の仕事は、私が頑張ります」


「頑張って船乗りとして経験を積んだら、私がお酒なんかを運ぶ船を任せよう、そんなことも思っています。がんばってね」

 リンはポクルに向かって微笑んだ。


「リゲル様、今日はいろいろありがとうございました」

 夜になって二人っきりだ。

「どうしたの、堅苦しいなあ」

「一度、本当にちゃんとお礼が言いたくて」


 地球にいたときは、毎日の仕事と生活に追われているだけの日々だった。やりたいこともあったような気もするが、それがいったい何だったかすらも忘れてしまう生活。


 ここに来て最初は戸惑ったが、今はとにかく自分のやりたいことが見つかり、失敗もあるけれどかなえられていく。誰かに礼を言いたかった。となればやっぱりリゲルだろう。


 ここでの生活はこれからが本番だ、やっと第一章が終わったところだ。

「これからもよろしくお願いします」

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お姫様かと思ったら、戦って、耕して。それでも幸せ、かな ひぐらし なく @higurashinaku

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