第18話 まるでBL
「ベテルは、付き合っている人とかいないの」
リンはジェネに聞いてみた。ベテルとは親衛隊の男性将校で、ジェネの同僚だ。二人の雰囲気から言って、てっきり付き合っているものと思っていたのだが、彼女がバッカスといい仲になったことで、心配になったのだ。
我ながら遠回しな尋ね方だ。
「彼には……。私からはちょっと、リゲル様にお聞きいただけますか」
意外な返事が返ってきた。リゲルに聞けとは、それはつまり我が国にとって大きな話ということなのだろうか。
リンは酒造りをみんなに任せて、館に戻った。
「ああ、そのこと、話そうかどうしようかと気にはなってたんだけど。ちょっと長くなるから、夜でいいかな」
「え、なんかすごく気になって、仕事が手に」
リゲルは苦笑した。手にした書物を閉じてテーブルに座った。
「ベテルって幾つだと思う」
「幾つって、私たちと同じぐらいじゃ」
「違う、彼がここに来たのは、おとうさまが子供だったころらしい」
リンはリゲルが、冗談を言ったのだと思った。おとう様が子供、五十年は昔ということになる。
「冗談ですよね、そうなると私より五十以上は年上になっちゃう」
「多分そんなものじゃすまない、彼は人じゃない、魔なんだ」
「魔、まって、魔って」
リンは自分がさぞ間抜けた顔をしているだろうと思う。それほどリゲルの答えは驚くものだったのだ。
「親衛隊の将校ですよね、リゲルを守るのが任務の」
「うん、だけども彼は魔なんだ、元は魔王の直属の部下だった」
「魔が親衛隊なんておかしい」
「どうして、リンだって、シロイチや今度はバッカスだっけ、使ってるじゃない」
そう言われればそうだ、だけど親衛隊となれば直接魔と闘うのだ、彼のアイデンティティは。
リゲルは自分も効いた話だけれどと前置きをして話を始めた。
その頃、魔王は積極的にアンジェルに攻勢をかけていた。別に意味はなかったが、領主に珍しく子供が二人、リゲルの父親とベガが生まれたことが面白くなかったのか単に順番だったのか、はわからない。
魔王はこの星のあちこちの国を、一か国二十五年の律義さで、順繰りに攻めるらしい。
おかげで人間もいろいろ備え、耐えられるということらしい。
当時の親衛隊長は「アンタス」という名前の青年だったらしい。
彼は勇猛果敢でありながら眉目秀麗で、彼が長い髪をたなびかせホルクをかけさせる姿は女性たちのあこがれの的だったらしい。
「そんな彼が、国外れの森で、一人の男性と出会ったらしい。まだ攻勢が始まる前のことだ」
え、何なに、そのいかにもの展開、リンはこころの中でわくわくした。
そこで、気が付いた。
「それが、ベテルだったの、もしかして」
「よく分かったね、その通りだよ」
二人はともに平服だったこともあり、お互いの正体は気が付かなかったらしい。
ただ最初から、お互いを気に入り、七日ごとにこの場所で会おう、そう約束をしたらしい。
「そして、まあ、恋に落ちた」
リンは思わず「きゃあ」と声をあげそうになった。美少年の恋、うーん。
「え、そんなの許されたんですか、同性同士、魔と人間」
「同性同士はこの星の神は許されている、愛し合う者同士の勝手だ。魔と人間、それも止めてもどうにもならないじゃないか。叔母上もジェネも」
「ふーん、寛大なんですね、この星は」
「まあ神がそういう考えだから」
「でも、二人は敵対してますよね、となると」
「ああ、そのままでハッピーエンドにはならなかった」
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