第29話 パンの市場にて

 ミルンの首都パンはさすがに大きな街だ。この街だけで人口もアンジェルの数倍、いや数十倍はいるかもしれない。

 ジェネとリンをのぞく四人は、きょろきょろしている。


「お店が多いし人も多い」

「奇麗な服いいなあ」

 カスルとポクルだけではなく、シロイチとモモまでがそんなことを言っている。

「あんたたちは、欲しいもの自分で作ればいいでしょ」

「そりゃそうですけど」


 物欲全開はどうしようもないことなのだろう。しかし、アンジェルの人々のアンケート結果は、今のままの生活を望んでいる。そこがわからない。

「ねえ、ジェネはここの暮らしどう思う」

「際限ないですよね、一度手を出し始めると終わりがなくなります」

「アンジェルのみんなはどうなの、ミルンに来たことがないってわけじゃないよね」


 ジェネは本当にびっくりした顔をした。

「この星では、どこに住もうと自由です。そこの国を選べば、その国の決まりに従いますが、引っ越しはこの星の中で、どこでも自由です。ご存じなかったのですか」

「リゲルそんなこと教えてくれなかった」

「多分リン様は、引っ越しが許されないからじゃないですか」


 そうか、私は自由がないんだ。当たり前といえば当たり前かもしれないが。

「つまり、アンジェルにいるのは、そういうのに興味がない人たちってこと?」

「まあそういう人もいますが、どちらかというと、街にいたら物欲に負けて破滅とわかっている人が多いと思います」


「お金があれば、そういっても、際限もなく稼げはしないってことか」

「少しは豊かにしてあげたいなあ」

「無理してまで儲けたくはないってところですかね」

「あれ、でも子供たちはどうなの」

「ああ、引っ越しするものも多いですよ、農業以外がいいと思うものはいますから、でも人が多いところには、魔もよく現れますから」


 なるほどと思った。人と人は争わないけれど、魔がやってくるか。微妙なシステムだなと思う。

「あ、ここはお店は多いけど、その商品はどこで作っているの」

「ミルン国内にも工場はありますけど、どちらかというとタルシアに多くあります」

 つまり、農商工をうまく振り分けているということか。この星のそれ以外の国はどうなっているのだろうか。


「他の国、さあ、私はわかりません」

「シロイチとモモは」

「知りません、知る必要もないので」

 気になるなあ、けれどまあ確かに必要はないかもしれない、この三か国だけで生活は回るのならば。


「ねえ、ここで物を買うにはどうするの」

「基本は金、銀、銅を必要に応じて、ですが、ここではそれじゃ重さをはかったりで大変なので、紙幣を使います。もってきてますよ、リゲル様から頂いてきました」

 そうなんだ、ミルンにはお金があるんだ。確かに人口が多くなれば、そうでなければ始まらないだろう。

 紙幣とはつまり兌換紙幣だかんしへいということだろう。


「何かお買い求めになりますか」

「あの二人に服でも」

「ああ、そうですね。あまりにあれじゃみすぼらしすぎますね。何か我々がいじめているみたいですよね」

 ジェネはそういうとくすっと笑った。カスルとポクルの二人は、何を言われたかわからずきょとんとしている。


 一行は店の並ぶ、市場に行ってみることにした。市場の風景はどこでも一緒だ、活気にあふれている。

 食料品、衣服、陶器、雑貨、買うわけではないが見るだけでも楽しい。

 いいにおいがしてきた。そういえば、クルムの屋敷を出た切り食事もせずに歩いていた。


「リン様、腹が減りました」

「そこの騎士さんたち、食べてかないかい」

 何かの肉を焼く匂いがした。

 なにか、昔テレビで見た中東の街角のような雰囲気だ。


「食べてく?」

「リン様、俺は鳥で、モモはうさぎです」

「あ、ごめん」

 二人が、おとなしくなっていたのはそういう訳だったのか。


 あんまり二人が、普通に人のなりをしているのでわすれていた。

「パンと野菜サラダが無難ですね」

「館は精霊が多いから、食べるものには気を使います」

 そういえば、いつもの食事も、豆腐や納豆が出てくる。リンは自分に合わせてくれているのかと思っていたが、そういう訳なのかと気がついた。動物性は魚だけ。理由が分かった。

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