第7話 神をまつるもの

結婚式も終わり、リンはやっとリゲルと同じ部屋で暮らすことになった。

真面目というか律儀というか誠実というか、リゲルは領主なのに、一か月の間、凛に全く手も触れなかったのだ。

リンの名前も凛からリンになった。


「えっと、私はあなた様をなんて呼べばよいのでしょう、陛下とか、殿とか」

「え、前も行ったじゃない、リゲルかあなたでいいよ」

「じゃ、リゲル様」

「いや、単にリゲルで」

「だって、ご領主さまでしょ」


「まあそうだけど、私の両親もお互いに名前で呼んでいたし、他国はしらないけれど、我々は名前でいいと思う」

それは楽でいいが、何となく思っていたお館の暮らしとは違うような。


「それじゃ、そろそろこの国、この星の話をしておこうか」

そうなのだ、不思議なことが多すぎて、知りたいことは多かった。しかし誰に尋ねても、そのうちご領主さまがとしか言われなかった。


「この星は君たちの言うシリウスの惑星の一つ、それは前に言ったよね。でも、この世界はその惑星にくっついている異世界なんだ」

リゲルは訳の分からないことを言い始めた。

「じゃあ、本体は、惑星の方にも人はいるんですか」

「いや、いないどころか生物の生きられる環境ではない。いつのころか、神が、この星の何を気に言ったか、とにかく異世界をくっつけたらしい」

「神様が? キリスト、それとも北欧の、まさかアマテラス」

「いや、まったく異なる神様だと思う。おそらくこの世界だけの」


「ということは、この世界はその神様の趣味ということですか」

「そう、穏やかなのんびりとした楽園を」

「でも人が増えると、いろいろ穏やかではなくなりませんか」

「その通り、人は勢力を伸ばそうと、グループを組み自分たちの欲望を満たそうと争いを始めてしまった」

有りがちな話だと思った。

「戦いは文明を生み、やがて楽園は壊れる、神はあちこちでそのような悲劇を見てこられた」


それはリンにも想像がついた。

「それで神は人々が争いをする暇がないように、人の天敵を生み出されたのだ」

「それって魔王のことですか」

リゲルが感心した表情を見せた。

「そうだよ、よく分かるね」

いや、今日のことを思い出せば、だれでもわかるでしょう、普通。


「だからこの星では一万年以上、戦争はないと言ったんだ。魔王と闘うことでそれ以上の暇がなかった」

「ただ、神の失敗は魔王に自律を許したことにあった。結果、魔王は暴走を始めた」

「え、世界征服ですか」

リゲルは笑った。

「ちがうよ、神の言うことを聞かなくなったんだ。手下を作り出し人間のような欲望を満たし始めたんだ」


「神様はそれに対して?」

「うーん、何もできない。神は生み出したものを自分でなかったことにはできない、できることは我々にほんの少しだけ加勢すること。それだけ」


「今日の弓みたいに?」

「そう、リンに破魔の力を授けられたようだ」

「それって、私が魔王と闘うってことですか」

「うん、そういうことになった」

「リゲルは?」


「私は、神の声を伝えるもの。この国は要は神社なんだ。昔はもっと力があったんだが、両親が魔王の手にかかって亡くなってから、すっかり貧しくなってしまった」

それが、村の娘たちが言っていたことか。


「民も減り、畑もあれている。これ以上民を、魔王との戦いで減らすわけにはいかないから精霊の力を借りて動物たちに戦ってもらっている」

それが、馭者であり親衛隊ということだろう、ここまで聞いてリンはやっと納得がいった。

「わかりました、私頑張ります。作物つくって、お酒を造って、魔王と闘います」

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