第4話 少女たち
ブドウ踏みの少女たちが、こちらをちらちら見ながら何かを囁いている。
収穫されたブドウは彼女たちに踏まれてジュースになる。地球でも昔はワインは村の娘たちが素足で踏んでいたと聞いたことがあった。どこでもやることは変わらない。
彼女たちの服も中世ヨーロッパの村娘みたいなふわっと広がるスカート。
領地をめぐる時にちらっと見かけたのが可愛いと思ったので、凛も着替えさせてもらっている。
もっともお付きになってくれた女性クルムには、お姫様が着るものじゃないと反対されたが、リゲルが、凛の好きにと言ってくれたので、着ることができた。
それでもぶつぶつ言っていたクルムだけど、いざ着てみせると、しきりにかわいいを連発してくれた。
「ねえ、あんた見かけない顔ね、何処から来たの? 」
ひそひそ話をやめて、その中の一人が話しかけてきた。
「ミルン? それともタルシア?」
「違うよ、ジャポネだよ」
「どこ聞いたことないわ。 あなたのその黒い髪本物? 不思議な色ね。でも奇麗、触ってもいい?」
いつの間にか、凛の周囲には少女たちが集まってきていた。
白い肌、褐色の肌、黒い肌。髪の色も銀、金、青、赤に茶。
カラフルだけど凛のように黄色い肌に黒い髪はいなかった。
総じてみんな美人というか可愛い。
リゲルの領地『アンジェル』には、こんなに可愛い人が多いのにどうして自分が外から結婚相手に選ばれたのだろう。凛はそれが不思議で仕方がなかった。
きっとほかの国にもきれいなお姫様はいるはずなのに、そっちからの話はなかったのだろうか。
それを聞くと、そのうちにということでみんなちゃんとは話してくれない。
分かったことは、リゲルは領民から、慕われている。
リゲルの家はなぜか尊敬崇拝されている。
リゲルの領地はとても貧しい。
ということだった。
最後のは特に極端で、リゲルの住むところ、お館も石造りではあるが小さく、凛が思っていたお館とはかなり違ったものだった。
館で働くものは、凛の侍女を含め十人ほど。
リゲルを守る親衛隊もわずかながらの軍隊もあるらしい。
けれど、館にはちょっといかついクマのような将軍と凛より少しばかり年上の男女の将校が詰めているだけだった。
この星ではこの一万年ほど戦らしいものが起こっていないと聞いた。ただそれには理由があることを知るのはもう少し先だった。
「この葡萄で今度お酒を造るって噂を聞いたんだけど、凛は何か知ってる?」
最初に話しかけてきた少女、アル、と名乗った彼女が尋ねた。
自分がその話の張本人、そう言いかけて、凛は思いとどまった。今それを話すと、自分の身分がばれてしまう。それをいま言うのはちょっとためらわれた。
「そういえば、ご領主さまにやっとお方様が来られるって話もあるわ、お方様かもしれないね」
ミクと名乗った褐色の肌を持つ少女がいう。
なぜ凛はアンジェルの言葉がわかるのか、それもわからない。何か頭の中に映像と言葉が浮かび勝手に口から突いて出ている。だから本当の発音は違うのかもしれない。
単語にしても、お方様という言葉を選んだのは凛自身かもしれない。どうしてお妃さまじゃないんだろうとは思う。
「どんな方かなあ、ご領主さま嬉しいだろうなあ、お母様とお父様をなくされてお寂しかっただろうし」
「アル、その話は口にしちゃ」
ミクの言葉にアルは口を押えた、そしてそこにいた少女全員が指でアスタリスクをきった。どういう意味だろう、とりあえず考えずに凛も真似をした。
結婚式まであと三日、楽しみではあるが、まだ不安も多い。なんといっても謎が多すぎる。
でもそれは後だ、凛には出席者全員に配る、クッキーを焼く仕事がある。
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