第21話 祭りの準備

 しかし、この広さ。ベガ様はどうやって苗を植えたんだろう。

 何ヘクタールあるんだろう、一人じゃ絶対無理だし、シロイチやモモをこき使っても無理だよね。

 リンは穂を出し始めた稲が、風にそよぐのをただ茫然と見ていた。


「リン様、これからどうなさいますか」

 ジェネに呼びかけられて我に返った。

「とりあえず館に帰って、リゲル様に報告しなければ、ベガ様のことも」


 そういえば、あの米の種類は何なんだろう、お酒は造れるのか、お餅は煎餅は、領民に分ければどれくらいの量、リンはファルコン駆けさせながら考えていた。


「シロイチに上から見させると、領内の五分の一ほどが水田に変わっていました。あと大きな湖が」

 元々荒れ地で、利用されていなかった場所と海が、湖と水田に変わったのだ。

「叔母上にそんな力が」


「それなんですが、魔王が力を貸したんじゃないかと」

「大丈夫なのかなあ」

 リゲルが不安そうな表情を見せた、それはそうだろう、神に仕える身としてはそのまま受け入れるかどうかは、難しい問題だった。


「魔王はわかりませんが、ベガ様は信じられます。それで、民の食料と、お酒と、せんべいができるはずです」

「そんなに?」


「お酒はバッカスが、せんべいやお菓子はモモがざっと考えてくれました」

「それを他国に売ろうということなんだね、リンはすごいなあ」

「私はなにも、全部ベガ様のおかげです」

「それにしても、リンが来たから叔母上が」

 リンには、ベガ様がそこまで力を貸してくれる理由がわからないが、きっと、甥っ子が可愛いのだろうと思うことにしている。


「ただ、困ることがあって」

「人手かな」

 さすがにリゲルだ、それがわかっていて飄々としているということは、すでに解決策を考えついているのだろう。


「民に食料分はただで配布する。その代わり、田植えと借り入れは私たちも含め全員でやる。売る分以外のお酒もお菓子もみんなに配ればいい。その日は休みにしてみんなで祭りにする」


 親衛隊と精霊たちには、普段の手入れをさせよう。

「リゲル様とリン様の護衛は」

「そんなものはいらないさ、リンの神弓がある」

「リゲル様、私にそこまで力は」

「大丈夫だ、もし何かが起こっても神が守ってくださる」


「早速触書をしたためよう」

「新しくできた湖には魚がいるようです、まずは釣りなどを自由にさせていただきたいのですが」


「参加できるものは自由ということで、お披露目の祭りでも行いませんか、湖で」

「それは構わないが、集まるかな民が」

「バッカス、今までため込んでるお酒があるよね」

 ジェネの言葉に、バッカスが明らかにぎくりとした表情を見せた。


「あ、あるけど、それがどうした」

「全部とは言わないから、振舞なさいよ」

「なんで、わしの」

「味を覚えてもらって、みんなに作ってもらえば、これから苦労なく飲めるでしょ。嫌なの、それならもう縁切りね。彼がしみったれなんて耐えなられない」


 バッカスは、渋々酒を放出することにした。シロイチ、モモ、クルムはお餅を作ることにした。ベガ様は自分のお屋敷にあったもち米などを、お館の蔵に送ってくれていた。それはもう彼女はこちらに戻らないという意思表示に違いない。リンは少し胸が痛んだ。


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