第23話 やりたいことは見つかったけれど

 その星で一番大きな陸地のそばにある島国、そこで私は生まれたらしい。

 らしいっておかしい?

 でもそれは仕方がない、本当のことはわからないから、なぜなら私には両親がいない。


 その島国のまた端にある島で、農業をやっていた夫婦のもとに、籠に入れられた私は置かれていた。

 その夫婦は子供がいない優しい人たちで、決して裕福とは言えない暮らしだったけれど、私に凛という名前を付けて一生懸命育ててくれた。


 私は、育ての親の力になりたくて農業高校に行き、成績がよかったことから、いくつかの奨学金をもらうことができそのおかげで、大学に行くこともできた。

 悲しい出来事は、大学二年の時に起った。


 台風による豪雨で、夫婦の家も畑も流されてしまったのだ。

 知らせを聞いて都会から飛んで帰った凛が見たものは、土砂に押しつぶされ大半が埋もれた家と畑だった。凛は脚が震え、泣くことすらできなかった。


 育ての親の二人は、五年以上たった今もまだ見つかっていない。

 再び一人ぼっちになった凛は卒業後農林水産省に入庁した。一応いわゆるキャリアだったけれど、仕事は実際の農業とはかけ離れた、政治家や企業とのやり取りばかり。

 残業とパワハラとセクハラと満員電車の痴漢とどれもこれももういいや、疲れた、そう思っていた時にタムが現れたのだった。


「だから、私には帰るところがないの、皆さんよろしくお願いします」

 リンは沈黙してしまった面々に明るくいった。

「その、本当のご両親と、育ててくださったご夫婦、なんか不思議な感じが」

 マミが遠慮がちに言った。

「うん、私もそう思う、でも、ここにきて思ったんだけれど」

 リンは、みんなの顔をぐるっと見まわした。

「魂はどこかに元気で暮らしていると思うの、それでいいと思えるようになってきた。私はみんなに感謝しかないけどね」


「その方々は、きっと私とリンを結び付けるためにリンを生み育てたのかもしれないね」

 リゲルはそういうとにっこり笑った。


「ということで、私の話はおしまいです、ね、普通の人でしょ」

「はい、リン様が、ちょっとうらやましいなと思ったんですけど、頑張ります」

 マミの言葉に、ミクやアルもうなづいた。


「領内に子供はどれくらいいるの? 赤ちゃんから十五歳くらいまでで」

「ざっと二千人くらいです」

 クルムが即答した。いろんなことが頭に入っているのか。すごいなと単純に関心してしまう。


「みんな家の仕事とかに忙しいんでしょうね」

「はい、どうしても畑の草取りもあれば洗濯や水運びとかも」

「領民のほとんどはやっぱり農業なの?」

「職人と商人が少し居るだけで、ほとんどが農業ですね」

 学校にも通ってほしい、生活も楽になってほしい、いろんなことを思うけれど、ちょっと待って、それって私の価値観?


「シロイチ、私の声を大きくできる」

「できますよ、ちょっと待ってくださいね」

 シロイチは、自分の荷物袋から、メガホンのようなものを取り出した。


 何だメガホンか、そう思ったけれど、シロイチは空から声を響かせていたのだ。

 ないよりはましだろう。凛はメガホンに口を付けた。

「みんな聞いて」

 遠くの山が崩れそうな大声、さすがにそれは大げさだけど。


「わ、リン様そんなに叫ばないで」

 集まっている人がみんな耳を押さえて座り込んだ、特に側にいたリゲルたちは目を回しそうになった。

 さすがの魔力にリンもびっくりしてメガホンを落としそうになった。







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