第26話 いやな奴ら
リンは一瞬心が冷えた、そうなのだ統治ということはそういうこともあるのだ。
忘れていた、それはリゲルに聞かなくては。
「うちの人がいけないんです、だから、それは恨んだりはしません」
彼女の粗末な服と、あばら家の惨状、すべての理由が分かった。
リルラは泣くのをやめ、顔をあげた。最初の印象より整った顔をしている。
「暮らし向きはどうなされているんですか」
「私でできる畑の」
それだけでは、生きていくのがギリギリだろうということは、リンにも理解できる。
「村の人たちは」
つい聞いてしまったことを、後悔した。おそらくこの国で犯罪などはほとんど起きないのだろう、そんななかで殺人犯の家族となれば、どんな扱いを受けるかは容易に想像がついた。
「家族に罪はないので、村八分にしてはいけない。そう定められてはいますが人の心はそんなに。それは親族とても同じです、みんな縁を切ってしまいます」
ベテルがあえてというように言うと、威を正して片膝をつ。
「私からリン様へのお願いです」
リンはベテルの言葉を手をあげて遮った。彼がなぜ私をここに連れてきたがわかったからだ。
「新しく水田を開きました。そこを御一家で手伝ってくれませんか、お住まいも水田のそばに用意します、これは私からのお願いです」
リゲルは頭を下げた。
リゲルは、ホルク車を一台手配していたようだ。
シロイチとモモを使って一家の荷物をさっさとまとめると、リルラと二人の子供をホルク車に乗せた。
各村には村長がいるらしい。らしいというのはリンにはいまだにこの国のことがよく分かっていないからだ。
その村長がベテルの来村を聞いて慌ててやってきた。どことなく尊大そうな中年の男性だ。昔の職場にもいた苦手なタイプ。
「ベテル様、急なお見えとは何かあったのでございましょうか」
ベテルが答える前に、リンを見ると不審げな目を向けたが、今はベテルの方が優先だとばかりに、一瞥をくれただけだった。まだまだ国民にはリンよりはベテルの方が有名だ。
「人殺しの家でまた何かあったんでしょうか、荷物をまとめさせたということはどこぞに追放ですか、ありがたいことで、あんなものがおったら村中心配で」
「村長のくせにとんだ考え違い、罪は個人のもの、家族には何の関係もない話ではないですか」
「なんだお前、女の分際で。村長の大役を任されている私に、説教か。ははーん、人殺しの一族だな、一緒に追放か」
「お方様だ」
「なんだ、お方様」
リンは人生で初めて血の気が失せた顔というものを見た。さらには地面に這いつくばった人間も。まるで時代劇だなとリンは笑いそうになった。
「あなたのことは覚えておきます。この一家には、以後私の仕事をお手伝いしてもらいますので、この村にはもう迷惑をかけることはないでしょう」
そこまで言ってリンはふと気が付いたというより勘が働いた。リルラの顔を見ると汚らわしいものを見る目をしていた。
「村長、まさかあなたリルラに」
村長は再び頭を地面にこすりつけた。
「い、いえ、私は何も食事とかを施したことはありますが」
「そう、まあいいわ、私の手のものに調べさせるから」
リルラがほんの少し留飲を下げたような顔をしたのが、リンには救いに思えた。
シロイチはポクルを自分の前に乗せて、ホルクを歩ませている。
そういえば最近彼は、自分で飛ぶよりホルクを使う方が多くなっている。そのうちに魔力を失うのではないかと思う。まあ、それはそれでいいか。
ホルク車に乗ったカスルとリルラには、モモが何か話をしている。最初の硬かった顔がずいぶん柔らかくなり、ときおり笑顔が見えるようになっていた。
「リゲル、ありがとう、礼を言います」
「私も少し気になっていましたので」
魔とは思えない優しい顔だ、なかに棲むアンタスの顔かもしれない。
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