第5話 高校生活初日

 病院での一週間はあっという間に過ぎた。高校に編入するための準備やひとり暮らしの準備などやることが山積みだった。他の【新百寿人】と一緒になる機会があったが、全員が一緒の高校に編入するわけではないらしい。


(気軽に話しかけられる雰囲気ではなかったな)


 高校の話は、実際に彼らから聞いたわけではなく佐戸が教えてくれて始めて知った。結局、明寿は彼らとほとんど話すことなく別れることになった。



 明寿が高校に編入したのは5月のGW明けだった。新学期から一か月たったタイミングでの編入だったが、学校側は特に疑問を示すことなく明寿を迎え入れた。


「転校生が来ました。皆さん、仲良くするように。早速だが自己紹介をお願いします」


「白石流星(しらいしりゅうせい)と申します。ヨロシクオネガイシマス」


 担任に自己紹介を求められて、明寿は教室の前で挨拶する。ぐるりと教室を見渡すと、自分の実年齢からしたらひ孫にあたる年齢の15,6歳の若者たちが明寿をじっと見つめている。


(まさか、二度目の高校生活を送ることになるとは)


 もう、高校を卒業してから80年以上経つ。そんな年寄りがまた新たに高校生活を謳歌できるだろうか。明寿には今まで生きてきた100年分の記憶が残っている。その状態で今を生きる若者とうまくやっていく未来が想像できない。


「それだけか?まあ、緊張しているのはわかる。みんな、仲良くしてやってくれよ。席は……。窓側の一番後ろの席が空いているから、そこに座ってくれ」


 担任の指示に従って、生徒の合間を縫って明寿は自分の席に着く。


(担任だって、私から見たら孫みたいな年齢の人間だ)


 明寿が席に着くのを確認して、担任が朝の連絡事項を生徒に伝え始める。担任は40歳くらいの男性で、生徒たちに人気がありそうな明るい笑顔が特徴的だった。明寿とは気が合いそうにない。


「お前って、もしかして【新百寿人】か?」


 ぼんやりと担任の話を聞いていたら、不意に声をかけられる。明寿の前の席に座る生徒が後ろを振り返って明寿を見つめていた。探るような視線が嫌でうつむきながらも、明寿は返答を考える。


 明寿が【新百寿人】だということは、高校の校長と病院側しか知らないはずだ。【新百寿人】のプライバシー保護のため、会社や学校などには伝える義務があるが、全員には知らせる必要はない。校長にしか知らない情報をなぜ、初対面のクラスメイトが知っているのか。


「もし、私が【新百寿人】だとしたら、どうするのですか?」


「その話し方、妙に年寄り臭いな。お前の見た目と合わないからやめた方がいいぞ」


 ただ、明寿をからかいたかっただけかもしれない。そう思って明寿が質問で返すと、嫌な顔をされた。さらには話し方に文句を付けられる。年寄り臭いと言われても、一週間ほど前までは、年寄りとして生活していたのだから仕方ない。100歳にもなって話し方が高校生と同じなわけがない。


 ていうか、お前もか。


 最後にぼそりとつぶやいた言葉に明寿は首をかしげる。お前もかよ、ということは、他に【新百寿人】の知り合いがいうことか。


「甲斐(かい)、先生が話している最中によそ見とはいい度胸してるな。そんなお前に朗報だ。一時間目の先生の授業の準備を手伝ってくれ」


「嫌だよ。どうして俺が」


話に夢中になっていたら、担任が生徒の私語を注意する。生徒はカイというらしい。カイと呼ばれた生徒は不機嫌そうにしていたが、クラスではそこそこの地位にいるようだ。担任とカイの会話に生徒たちがどっと笑いだす。


(この生徒は、【新百寿人】についてどこまで知っているのだろうか)


 明寿のことを一目見て【新百寿人】だと気付いた。そのわけを知りたくなった。


 担任の指摘により、教壇に向きなおった生徒の背中を明寿はじっと見つめていた。

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