第18話 集団○○

「おはよう」

「おはようございます」


「白石君、ネットのニュース見た?隣の市の第二高生が集団自殺したんだって」


「そろそろ、うちらの学校にも波が来るかな。自殺者が出たら、警察とか来て面倒くさそう」


「まじで、嫌な世の中だよねえ。自殺なんてしても、その時は話題になるかもだけど、すぐに世間からは忘れ去られちゃうのに」


 次の日、明寿が教室に入ると、クラスメイトの男子二人に挨拶される。そして、世間話をするかのように高校生の集団自殺の件を明寿に話しだした。明寿は挨拶を返し、昨日スマホで見たニュースの記事を思い出す。


(第二高校だったのか)


 第二校は隣の市にある県立の高校で、大学の進学率が高いことで有名だ。自殺の理由は勉強についていけないことが原因だろうか。それとも、いじめが原因か。


 高校生の集団自殺だというのは記事で見たが、詳しい内容までは読んでいなかった。それにしても、クラスメイトの男子は同じ世代の人間が亡くなったというのに、どこか他人事のような口ぶりだ。明寿が黙っていると、二人はニュースを知らないと思ったのか、簡単に事件についての説明を始めた。


「白石君、もしかして知らないの?ここ1か月くらい、高校生の集団自殺が連続で起きているんだよ。最初に起きたのは昨年の夏くらいで、それから結構な頻度で起きてる。しかも、それがうちらのいる県に集中している」


「そして昨日、第二高の生徒が集団自殺したんだって」


 彼らは親切に、明寿に自分のスマホの画面を見せながら説明をしてくれる。小さな画面の中には、説明通りの情報が記載されていた。


「白石君は、この集団自殺についてどう思う?」


「どう思うって言われても……」


 高校生という若者が自ら命を落とすような世間は、間違っていると思う。だからと言って、高校生として生まれ変わった自分が彼らを救えたかというと、それは無理だ。明寿一人が憂いていても、何も変わらない。


「でもさ、自殺した人たちって全員、【新白寿人】なんでしょ」


「そうそう、だから、白石君がそこまで悲しむ必要はないと思うよ」


 クラスメイトの男子がとんでもないことを言いだした。明寿が俯いているのを悲しんでいると思ったらしい。言葉の意味を理解する前に、もう一人の男子がさらに言葉を続ける。


「100歳で突然生まれ変わって、また高校生からやり直すとかすごい時代だよね。二度目の高校生活とか、かなりイージーモードでしょ。とはいえ、僕たちには理解できないし、そもそも、外側だけ僕たちと同じで中身がジジババとか、そんな奴らと一緒に高校生活を送るのって、結構きついよな」


「でも、彼らも好きで若返るわけじゃあ」


「なになに、もしかして、第二校の集団自殺について話してる?混ぜてよ」


「あれでしょ。自殺者は全員【新白寿人】って話でしょ。ウケルヨネ。せっかく生まれ変わったのに自殺するとか」


 明寿が話しているところに続々とクラスメイトが集まってくる。いつの間にか、明寿は人だかりの中心となっていた。


「白石君は擁護派なんだね」


「珍しい。私たち高校生の間では反対派が結構多いから」


 どうやら、現役の高校生の間では【新白寿人】の評判はあまりよくないようだ。もし、明寿が【新白寿人】だと知ったらどんな反応を示すのか。


(ばれないように気をつけないと)


 基本的に【新白寿人】のプライバシーは守られる。会社や学校には報告する義務はあるが、それは責任者だけの話だ。会社だと社長、学校だと校長にだけ伝えればよいので、クラスメイトや担任は明寿が【新白寿人】であることを知らない。


「おはよう、朝から騒がしいけど、どうしたんだ?」


「おはよう、甲斐君。あれ、なんだか疲れている?」


 始業時間5分前に甲斐が教室に入ってきた。いつもはもっと早く投稿してくるのだが、寝坊でもしたのだろうか。目の下にはクマが出来ていた。


「別に。今日の課題が当たりそうだったから、今まで課題をやっていただけだ」


 明寿の顔を見ることなく、不機嫌そうに甲斐は自分の席に着く。昨日、明寿との約束を反故にした用事と、疲れた様子に何か関係があるのだろうか。課題をやっていたというのは嘘だろう。今までの様子から彼がそこまで真面目な生徒だとは思えない。


 登校が遅かった理由、目の下のクマの本当の理由を聞いてみたい気がしたが、もうすぐチャイムが鳴ってHRがはじまる。担任はチャイムが鳴ってすぐに教室に入ってくることが多い。


 明寿が考えていると、始業のチャイムが教室に鳴り響く。明寿の周りにいたクラスメイトはチャイムを聞いて、それぞれ自分の席に戻っていく。


「おはようございます。では朝のHRを始めましょう」


 明寿の予想通り、チャイムが鳴ってすぐに担任が教室にやってきた。担任が教壇の前に立って話し始めると、生徒たちは担任の方に身体をむけた。


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