第44話 十年ぶりの連絡
明寿の血筋は絶えることなく脈々と続いていた。
荒島については明寿の親戚ではあったが、あんなことがあったのでその後のことはどうでもよかったが、どうやら県外でまた教師をしているらしいと佐戸が教えてくれた。生徒に手を出して警察沙汰になったのに、あまりにずさんな学校体制だ。
『そういえば、明寿君は確か高校の時に部活に入っていましたよね?彼らとは結構親しくしていたみたいですけど、連絡先は知らないでしょう?せっかくだから、親戚の情報と一緒に教えてあげますよ。10年経っても彼らが明寿君を覚えているとは限りませんけど、これも良い機会なので会ってみてはいかがでしょう?』
佐戸は明寿に親せき情報以外にも、親切に明寿が親しくしていた人間の情報も教えてくれた。退学は突然だったので、確かに彼らは明寿のことを心配しているだろう。明寿は快く情報提供を受け取ることにした。
『もしもし』
「お久しぶりです。不破さんの携帯でよろしいでしょうか。鈴木明寿ですが……」
『不破ですけど、スズキアキトシ……。どちら様ですか?』
「エエト、ああ、間違えました。白石流星です。高校の時に『ミステリー研究部』に所属していました」
『ああ、『ミステリー研究部』の白石君。突然だね。どうしたの?自分の名前を間違えるなんてなかなかないと思うけど』
「あははは」
『もしかして、白石君の本名が『スズキアキトシ』で、実は【新百寿人】で生まれ変わる前の記憶持ち?』
現在使用している名前ではなく、『明寿』の名前を口にしてしまったことに明寿自身が一番驚いていた。佐戸が明寿のことを「白石流星」ではなく、「鈴木明寿」と認識して、明寿と呼んでいたことが原因だと、勝手に明寿は名前の間違いを佐戸のせいにした。
「あははは」
間違えてしまったのは仕方ないが、まさかそこから【新百寿人】の記憶持ちだと紐づけられるだろうか。明寿は笑ってごまかすことにした。
『図星かな?部活の時に研究テーマを伝えあったよね?僕はあれからずっと【新百寿人】について独自に調べていたんだよ。そうしたら、どうやらごくまれに昔の記憶を持ったまま生まれ変わる【新百寿人】がいるらしいことがわかった』
しかし、明寿の苦笑に対して不破は【新百寿人】についての言及を始める。
「記憶持ちの【新百寿人】が私のほかにも……」
『おや、やはり僕の勘は正しいね。しかし、白石君が【新百寿人】というのは納得かな。道理であの当時、妙に大人びた口調と態度を取っていたわけだ』
明寿の独り言は電話越しの不破に聞こえていたようだ。はっと口を押えた時には遅く、不破の笑いながら話す声が明寿の耳に届く。
「それにしても、あれから10年も経っているんだね。白石君は、退学後はどうしていたの?僕は高校を卒業して大学に行って、今は大学院に進学していまだに勉学に勤しんでいるよ」
明寿の今の年齢は25歳。不破は明寿より年上だが、それでもこれくらいの年齢は大学に行っている人間や仕事を始めて社会人として生きている人が多いだろう。
「エエト、あの時は突然退学して、連絡もせず、心配かけてすみません。あれから私は」
病院で佐戸の助手として働いていた
正直に不破に病院で働いていたことを伝えることができなかった。明寿の言葉は途中で止まってしまう。そもそも、病院で働くための資格が高校を中退した明寿にあるとは思えない。そこを佐戸の力で無理やり働かせてもらったのだ。
『なかなか大変だったみたいだね。まあ、その辺は詳しく聞かないことにする。代わりに白石君が退学した後の話をしようか』
明寿の事情を配慮したのか、不破はそれ以上、明寿のプライベートについて質問することはなかった。代わりに明寿の退学後に起こったことを話してくれる。
『あれから学校は大騒ぎだったよ。荒島先生は突然退職するし、事務員の人も自殺したらしいと噂が出たし、白石君と同じクラスだった甲斐君も、白石君のすぐ後に退学になった。まったく、後にも先にもこんなにいろいろあった学校生活はなかったね」
10年という月日が経過しているにも関わらず、部長だった不破は高校の時と同じような口調で明寿と話している。電話越しとはいえ、元気そうな様子で明寿は昔に戻ったかのような錯覚を覚える。
「連絡したいときは、いつでも連絡くれたらいいよ。どうやって僕の新しい携帯の番号を知ったか知らないけど。多田には連絡したかい?」
「まだです。部長だった不破先輩に先に連絡しました」
『そうなんだね。きっと多田も白石君からの連絡は喜ぶと思うよ』
「でも、平日の昼間は電話に出られないかもしれないから、土日や平日の夕方に連絡したほうがいいよ。僕はたまたまゼミがなくて出られたけど」
「ありがとうございます」
(私も昔は勉学に励んでいたな)
電話を終えた明寿は、電話越しの不破の楽しそうな声に昔の記憶がよみがえる。しかし、すぐに現実の自分を振り返りため息が出る。今の自分は勉学に励む気力もなく、さらには生きる意味も失っていた。とはいえ、今は生きる意味を見つけた。
携帯の画面に出た時刻を見ると、午後の14時10分を示していた。すぐに多田に電話をしようと思ったが、不破の言葉を思い出して夕方にかけることにした。
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