第28話 最悪の展開
荒島が新たに赴任して一週間後、明寿の通う高校は大変な事態に陥っていた。近隣の高校で起きていた集団自殺がとうとう、明寿たちの高校でも起きてしまった。
いつものように目覚ましの音で目が覚めた明寿は、ベッドわきに置かれたスマホを確認すると、不在着信が二件あった。
「もしもし」
まずは不在着信を折り返すことにした。電話があったのは朝の6時半で、現在の時刻は6時50分。もしかしたら、相手はまだ電話に出ることができるかもしれない。
「ああ、流星君ですか?佐戸です。ニュースは見ましたか?」
不在着信の一件目は佐戸だった。こんな朝早くからなんの用事かと思ったが、ニュースとはいったい、何のことだろうか。
「まだ、見ていませんが」
「どうやら、隣の高校で起きた集団自殺の波が、流星君の高校にもやってきたようですよ」
「集団自殺……」
嫌な響きの言葉だ。明寿の頭の中に最悪のシナリオが浮かぶが、まだ確定したわけではない。聞きたくはないが、佐戸に誰が自殺したのか尋ねようとしたが。
「ああ、そろそろ私は家を出なくてはいけませんね。すいません、この話はネットを見たほうが早いと思います。それか、クラスメイト、あの小生意気な小僧、甲斐君に聞いたらすぐに教えてもらえると思いますよ」
肝心な自殺した生徒の名前を聞く前に電話を切られてしまった。あまりにも一方的に切られた電話にしばらく明寿の思考は停止していた。
(うちの高校の生徒が自殺……)
「ブーブー」
「もしもし」
「起きていたか。今朝のニュース見たか?」
「見ていないけど、甲斐君の言いたいことはわかってる」
「話が早くて助かった。たぶん、今日は学校があるけど、今週は休みだな、これは」
もう一件の不在着信は佐戸が言っていたクラスメイトの甲斐だ。かけなおす手間が省けた。朝からクラスメイトに電話など、よほどのことがない限りしない。それなのにわざわざ電話をかけてきた。佐戸の電話も併せて考えると、用件など一つしかない。
それにしても、電話口から聞こえるクラスメイトの声は、ずいぶんと明るかった。まるで明日の天気の話をするかのような軽さにいらだちを覚える。
「自分の高校の生徒が自殺した。それなのに、どうしてそんなに平然としていられる!」
明寿はつい、強い口調で怒鳴ってしまう。甲斐はもともと何を考えているのか分からない奴だ。そんなことは短い付き合いで重々承知している。それでも言わずにはいられなかった。
「俺たちの身内が亡くなったわけじゃないだろう?何をそんなに慌てているんだ。ああ、もしかして」
「それ以上は口にするな!」
甲斐の言葉を遮り、明寿は電話を切った。通話が切れたスマホの黒い画面の中の自分の顔を見て、大きな溜息を吐く。佐戸と同じように一方的に電話を切ってしまったが、甲斐が発した言葉の続きを聞いて、発狂しない自信がなかった。
「とりあえず、学校に行くか」
明寿はのろのろと、ベッドから下りて学校に行く支度を始めた。学校で残酷なことを聞くことになったとしても、すでに心の準備はできている。
(高梨先輩、私はあなたを……)
玄関を出ると、外はどんよりとした曇り空だった。6月も終わりに近づき、梅雨ももうすぐ終わるだろう。きっと梅雨が明けたら、眩しい太陽で今度は暑さに悩むことになる。しかし、明寿の心はきっと、梅雨のどんよりとした曇り空のまま晴れることは無いだろう。
「ねえねえ、ニュース見た?まさか、うちらの学校でも怒るなんて驚きだよね」
「いったい、誰が自殺したんだろう」
「もう、ネットには名前が拡散されているらしいよ」
「誰々……。全員、3年生だね」
「警察とかが学校に来るのかなあ。面倒くさくなるね」
「マスコミに何か聞かれたりして」
朝、教室に入ると、既にクラスメイトの大半が登校していた。いつもの時間より少し遅めに家を出たが、遅刻ギリギリという訳ではない。明寿はいつも、始業時間より20分は早く学校に着くようにしていた。今日は15分前になってしまったが、いつもならまだクラスメイトは半分も来ていない。
クラスメイトたちは明寿が今朝、電話で知った集団自殺について語っていた。彼らの話を盗み聞きながら明寿は考える。
(3年生ということは)
やはり、そういうことか。最近、まったく会えずにいた先輩は。
「おはよう、白石。電話では言えなかったけど、高梨先輩は【楽園】に行ったよ。これ以上、苦しむことはない。歓迎してやれよ」
明寿が席に着くと、甲斐が後ろを振り向いて明寿だけに聞こえるようにこっそりと地獄の言葉を吐きだした。
「お前が先輩を殺ったのか」
「失礼なこと言うなよ。俺が手を下すわけないだろ。彼らは自分の意志で【楽園】に行ったんだ。白石もどうだ?この世界に不満があるんだろう?俺が良い方法を教えて」
【断る!】
明寿の大声はクラス中に響き渡る。普段、無口な明寿の突然の大声にクラスメイト達の視線は明寿と近くにいた甲斐に集まっていく。
「静かに」
ちょうどタイミングよく、始業のチャイムが鳴り、それと同時に担任が教室にやってきた。担任の顔色は悪く、やつれているように見えた。
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