第21話 調査内容
「ずいぶんと暗い顔をしているな。昼休みになんかあっただろ?」
体育の授業は校庭で行われた。男女別に行われていて、男子は校庭で野球の授業を受けることになっていた。今日は試合をしていて、出番ではない明寿と甲斐は木陰で休んでいた。5月とはいえ、強い日差しが校庭に降り注いでいる。木陰に居てもうっすらと汗ばんでくる陽気だ。甲斐が軽い口調で明寿に質問する。
「甲斐君はどうして今日、始業ぎりぎりに登校してきたの?」
明寿は甲斐を警戒していた。だからこそ、高梨のことを正直に話したくはなかった。話題をそらすために、こちらからも質問を投げかける。
「別に遅刻しなかったんだから」
「じゃあ、私のことも気にしなくていい。体調が悪いわけじゃないし、こうして午後の授業をきちんと受けている」
相手が自分の質問に答えないのなら、こちらも答える義理はない。そんな勝手なルールを作り、甲斐の質問を突っぱねる。
「白石に甲斐。そんなところで休んでないで身体を動かせ。甲斐、お前は野球部のエースだろ。しっかり授業に貢献してもらうからな。白石も次の試合で活躍を期待してるぞ」
『ハイ』
二人で話していたら、ちょうど試合が終わったようだ。体育教師に目をつけられると面倒だ。それは甲斐も同じらしく、明寿と甲斐は元気よく返事をして、校庭の中央に向かって駆け出した。明寿も甲斐も自らの質問をはぐらかされた形となった。
放課後、甲斐は明寿に何も告げずに、大急ぎで教室を出ていった。昨日の執着が嘘のような態度に明寿は不信感を覚える。しかし、今日もまた家に来るなんて言われても断っていた。一年生ながら野球部のエースと言っていたから、部活に向かったのだろう。実際に体育の授業では、ピッチャーとして大いに活躍していた。試合も甲斐のチームが圧勝した。
放課後に用事があるのは甲斐だけではない。明寿は教室を出て職員室に立ち寄り、入部届を担任に提出する。担任は明寿が入部する部活に驚きを示していたが、特に文句を言われることはなかった。
無事に入部届を提出した明寿はその足で、視聴覚室に向かった。
「ミステリー研究部にようこそ。僕たちは君を歓迎するよ」
「流星君、入ってくれてうれしいよ。一緒に研究頑張ろうね」
結局、明寿はミステリー研究部に入部することにした。ミステリー研究部の見学を終えた後、他の文化部の見学をしたが、明寿の興味を引く部活はなかった。
ミステリー研究部にした一番の決め手は【新百寿人】について、堂々と調べることが出来ることだ。放課後の時間を有意義に使える部活を明寿は気に入った。
「改めまして、白石流星(しらいしりゅうせい)です。研究テーマは【新百寿人】にしようと考えています。よろしくお願いします」
明寿はミステリー研究部に歓迎された。視聴覚室には先日見学に来た時に対応してくれた部長と、明寿と同じ一年生の多田がいた。それ以外に人は見当たらない。今日もまた、二人で活動していたのだろうか。
「この部屋に僕たちしかいないことが不思議?」
疑問が顔に出ていたのか、部長が苦笑しながら説明をしてくれた。部長は心が読めるのだろうか。
「実は、僕たちの部活、幽霊部員がほとんどなんだ。部活動として認めてもらうために、僕や多田君の友達を誘って兼部してもらっているんだ。実質活動をしているのは僕と多田君、あとは」
「彼も幽霊部員みたいなものですよ」
「ああ、そうだね。だから、部活動見学の時に話したことは忘れてくれていいよ。ただ」
白石君は、幽霊部員にならないことを願っているよ。
どうやら、ミステリー研究部みたいな怪しげな部活に入る生徒は少ないらしい。部長と多田以外のもう一人の存在が気になったが、幽霊部員だとしたら、明寿と会うことはないだろう。
「それで、どうして流星君は【新百寿人】について調べたいの?」
部活と言っても、部員が実質二人で活動内容も調査というあいまいなものだ。二人は週に三日、視聴覚室に集まって雑談することが多いらしい。とはいえ、今日は明寿が入部したということで、調べたいテーマについて話し合うことになった。明寿は部長と多田と向き合って座る。
「どうして……」
調べると宣言してしまった以上、理由を聞かれるのは当然のことだ。正直に自分が【新百寿人】であり、自らの体質について調べたい、などと話すわけにはいかない。それ以外で何か良い理由は無いものか。
「まあ、理由なんて人それぞれだよね。じゃあ、僕から話すね。僕が【新百寿人】に興味を持ったのは、人間がいきなり若返るという点だよ!今までファンタジーでしかなかったことが現実になった。だから僕はその仕組みを知りたい!」
明寿が言葉に詰まっていたら、先に多田が話し始めた。確かにいきなり100歳の老人が10代の若い身体に変化するのは、ファンタジーとしか思えない現象だ。それを調べたいと思う気持ちはよくわかる。
「僕は単純に、祖母が【新百寿人】に生まれ変わったから。純粋に祖母のその後の足取りを知りたくなったから、かな。とはいえ、今一番、調べたいのは」
高校生の集団自殺。
「部長、最近、そればっかり言っていますよね?」
「だって、こんなに立て続けに集団で僕たちと同じ高校生が自殺しているんだよ。誰か、自殺を手助けしている黒幕がいるに決まっている」
鼻息荒く話し出したのは部長の不和研徒(ふわけんと)だ。
(これはまた、随分と都合の良い部活だ)
明寿は心の中で思わず笑ってしまった。二人に対しては真剣な表情で調査内容に同意する。
【新百寿人】に集団自殺。今のところ、これらがつながるとしたら、クラスメイトが発した自殺者が全員【新百寿人】という情報しかない。とはいえ、明寿だけでなく、他に協力者がいたら。
「私は【新百寿人】を調べつつ、集団自殺の黒幕を調べていきたいです!」
これはもう、彼らの研究内容に乗っかるしかないだろう。
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