第22話 体調不良
高梨は明寿の前に姿を現さなくなった。明寿はそれでも毎日、彼女が来るのを期待して、昼休みは四階の空き教室にお弁当をもって足を運ぶ。
(さすがに自殺、はしていないですよね。そんなことがあれば、学校で噂になりますから)
高梨が空き教室に姿を見せなくなって一週間、明寿はついに高梨の様子を確認することにした。
昼休み、この高校に入ってから初めて、明寿は教室で昼食を取ることにした。甲斐は驚いた顔をしていたが、明寿と一緒に昼食を取ることを歓迎した。
「やっと、俺の言葉が白石に通じたみたいでうれしいよ」
「ちょっと、やらなくちゃいけない用事を思い出したんだ」
自分の机で黙々とお弁当を食べていたら、後ろの席の甲斐が絡んでくる。明寿はさっさと弁当を食べ終えて、高梨のいる三年生の教室に行ってみようと考えていた。
「用事?ああ、それで弁当をかき込んでいるのか。俺もその用事についていっていいか?」
「……」
甲斐がついてきてはまずい。明寿は無視を決め込んで、弁当箱を片付けて教室を無言で出て、三年生の教室がある三階に向かった。
「高梨先輩はいますか?」
「高梨?彼女ならここ一週間ぐらい、体調が悪いみたいで学校に来ていないよ。君、一年生だよね。高梨に何の用事?ていうか、君と高梨はどういう関係?」
高梨の学年はわかるが、クラスまでは把握していない。三年生は八クラスあるので、明寿は一組から順番に教室を訪ねることにした。
明寿が三年一組を訪ねると、すぐにクラスメイトの女子が高梨のことを教えてくれた。八クラス分を回らなくてはならないかと思っていたが、その必要はなくてほっとする。高梨は三年一組だった。
「エエト……」
高梨のクラスメイトに問いかけられた質問に、明寿は言葉に詰まってしまう。自分たちの関係は他人から見たらどのように見えるのか。高梨は部活に入っていないことは既に本人から聞いている。部活の先輩、後輩という関係は使えない。
「ようやく見つけた。三年の教室にいたのかよ。ほら、さっさと俺たちの教室に戻ろうぜ」
答えに悩んでいる明寿に突然、聞き覚えのある声がかけられる。
明寿が声のした方を振り向くと、そこには明寿のクラスメイトの甲斐が不機嫌そうに立っていた。どうやら、甲斐は明寿を探していたらしい。
「そうだね。先輩、情報提供ありがとうございます」
明寿は高梨のクラスメイトにお礼を言って廊下を歩きだす。甲斐のストーカーじみた行動は気味が悪いが、彼のおかげでクラスメイトの質問に答えずに済んだ。明寿は高梨の情報を教えてくれた先輩にお礼を言って、教室を離れる。わざわざ明寿を追いかけてきた甲斐のことは無視して、速足で廊下を歩いていく。
(体調不良と言っていたけど)
高梨が体調不良だというのは本当だろうか。初めて出会ったあの日、命を絶とうとしていた高梨。もしかして。
(いやいや、だから自殺だったら、噂になるはずだから。悪い方に考えすぎだ。とはいえ、男子が女子の体調不良のお見舞いに行くのは難しいな)
そもそも、明寿は高梨の家を知らない。そして、連絡先も交換していないことを思い出す。明寿自身はスマホの使い方に慣れておらず、連絡を交換するという発想が出てこなかった。高梨の方からも、連絡先を交換しようという話は出なかった。クラスメイトの様子を見ていると、スマホで連絡先を交換しあうのは普通で、メッセージのやり取りを頻繁にしているのを見たことがある。
それを横目で見ていたのに、どうして高梨との連絡先交換に至らなかったのか。明寿は自分の過去の行動を振り返るも、今更どうしようもない。
「なあ、三年生の教室に行ったのって、昼休みに教室にいない理由と関係があるのか?」
考え事をしながら歩いていたら、後ろからついてきた甲斐に話し掛けられる。
「甲斐君に話す必要はないよね?」
「酷いなあ。俺たち、友達だろう?」
「どうだろうね」
歩いているうちに明寿たちは教室にたどり着く。教室の手前で明寿はようやく甲斐の方に振り向いた。甲斐はあきれたような表情で大きな溜息をはいた。
「今日こそ、お前の家に行くから」
そのまま明寿より先に教室に入っていく。返事を聞かないところは相変わらずの性格だ。明寿は、返事をあきらめて甲斐の後に続いて教室に入っていく。昼休みがもう少しで終わりという教室は、クラスメイトの雑談の声で賑わっていた。
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