第40話「伊織の瞑想」


 

 沈黙を破ったのは伊織昌いおりあきら総理。


「各々の組織で緊急対策本部を立ち上げてくれ。考えていても何も見えてはこない。未知の脅威には、まずは触れないことにしよう。栗山町に踏み入って調査することも禁止する。栗山町上空も侵入禁止にしろ。触らぬ神に祟りなしってやつだ。──国民には、新種のウイルスで町が汚染されたとでも言っておく。この話に信憑性を持たせるのと、マスコミなどを栗山町に入れさせない為に栗山町を囲っている山の外周をバリケードで覆ってくれ。あ〜、臨時国会を開いて予算を通さねばならんな……独り言だ、気にするな。──それと、事が起こったときの為に、すぐに動ける実行部隊を編成することを忘れるなよ。被害を拡大させない事を大前提とする。以上だ」


「「「「了解しました!」」」」


 皆が席を立とうとした時、北海道支部長の葉山はやまトオルが手を挙げた。


「もう一ついいですか?」


 葉山はやまトオルが出した声に、皆が席に座り直す。


「それは大事な話なんだろうな?」


 高牧長官が部下の葉山はやまトオルにそう言った。それに対し、口角を上げて答える葉山はやまトオル。


「もちろんですよ。──話をする前に、一つ確認させて下さい。栗山支部の神竜巌上しんりゅうがんじょう支部長はもうお亡くなりになったんですか?」


 葉山はやまトオルの質問に、皆が高牧長官へ視線を向けた。


「河井の報告では、神竜しんりゅうから連絡が無い事ということと、栗山支部とも連絡がつかない事から隊員は全滅だろうと……」


「分かりました。──え〜、皆さんも知っているように、神竜しんりゅう家は色々と面倒な存在でしたよね? 降ってきた刀や呪い、などの噂で国民からもあまり好かれていない。そして、その神竜しんりゅうと河井が裏でコソコソと悪事を働いているって知ってます?」


 悪事という言葉に杉本警察庁長官が反応した。


神竜しんりゅうは確かにイメージが悪いが、白い色のエネビ玉……新しい資源を見つけて国にも貢献しているそうじゃないか。そんな奴が悪事など働くとは思えんがな」


 伊織昌いおりあきら総理が言葉を繋げた。


「杉本の言う通りだ。この間、神竜と河井が2人で白いエネビ玉を俺のところに持ってきた。イメージが悪かった人間が国の為に頑張っているんだぞ? 私も杉本と同じ意見だ」


 それに対して葉山はやまトオルが答えた。


「その新しい資源ですよ。──仮に『グレアス』とでも名付けましょうか? その『グレアス』を外国に横流しして儲けてるんですよね」


 皆が円卓を叩きながら立ち上がった。


「「「「馬鹿な!」」」」


 葉山はやまトオルが頭を掻きながら言う。


「馬鹿な、といわれてもね……。本当なんだからしょうがないじゃないですか。──あっ、因みに相手はアメリカです」


 伊織昌いおりあきら総理が天を仰いだ。


「なるほど……。それで合点がいった。アメリカが新しい資源のことをほのめかしながら、ワシに探りを入れてきていたんだ。もちろん知らぬ存ぜぬではぐらかしていたんだが……」


 高牧長官が、自分の部下の不祥事に頭を下げた。


「総理、申し訳ありません。私の監督不行き届きです」


「いや、それはしょうがないで済ませておこう」


 伊織総理の言葉に、杉本警察庁長官が。


「ですが、この噂が広まれば世論が黙っていないでしょうな。日本UAF不祥事発覚! 新資源をアメリカに横流しか? なんて事になりかねない。そうすれば、高牧の責任問題にもなるやもしれませんな。だが、今高牧に抜けられると困るので、何か手を打った方がよろしいかと」


 伊織昌いおりあきら総理が腕を組んで眉間にシワを寄せている。


「その不祥事を上司の監督不行き届きにもっていかない方法……。世論の目を分散させる程のインパクトのある話題が必要……」


「伊織の瞑想が始まりましたね」


「ああ。これが始まると、安心するな」


 杉本警察庁長官と高牧長官が目を見合い話すと。


「伊織総理は頭の切れが半端ないですからね」


 社長の懐金潤かいかねじゅんが相槌を打つ。


「どうです? 何かいい案が出そうですか?」


 葉山はやまトオルが急かした。


「河井を悪者として上司の高牧が頭を下げた後に、神竜を持ち上げて英雄にする。──国民に忌み嫌われている神竜が国に貢献し、未知のウイルスから栗山町の町民を守ろうと己を犠牲にして亡くなった……。これはインパクトがあるだろ。これで世論の目は神竜へと向く。この筋書きでいこうか。──今日は10月28日か……私と高牧とで本日の夜に緊急会見を行う。その場で記者を相手にした方が上手く誤魔化せるだろ。取り敢えず河井を拘束してくれ」


 杉本警察庁長官が言う。


「了解しました。大至急河井を拘束します」


「A級の河井がいなくなるのは痛いが、しかたないな。抜けた磯良支部の支部長を誰にするか……」


 高牧長官が頭に手を当てていると。


剣谷誠けんたにまことはどうです?」


 葉山はやまトオルが一人の名前をあげた。


剣谷けんたにか……。人の上に立つ器なのは確かだが、若いな……」


 高牧長官が渋っていると、伊織総理が高牧長官を指差した。


「高牧、若いで纒めるのはよくないぞ。いい人材はどんどん上にもっていけ。その方が成長が早い」


「了解しました。では、磯良支部の新支部長に剣谷誠けんたにまことを任命します」


 その言葉に伊織総理が大きく出る頷いた。


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