第12話「運命の10月27日」


 俺にも家宝の刀を扱える可能性がある、筈だ。


「んー、お父さんはそんなに小さな頃から家宝の刀を持ててたのか……。今でも持てるだけで長い間持つと倒れそうになるんだけどな? ──お父さんは成長してないのかな? ははっ……えーと、刀の噂が広まった後に、神竜家のせいでモンスターが現れてこんな事態になったんだと、迫害を受けたとも書いてあるな。え〜、これは慎二という人が書いた後書きだな……俺はもうこの件には関わらない。なので、知っていることは全てここに記してある。神竜一族に災いが無い事を説に願う……か」



 ── ハクガイ? その言葉は分からないけど、のけ者的な感じかな? 俺も学校で陰口を言われたりはしてるんだよな……。悪口の内容は価値のことだと思ってたけど、刀の噂が広がってるのなら、その刀のことも言われてるんだろうなぁ。──でも、そんな凄い刀なのに最初の人以外に誰も扱えていないなんて……もったいないよな。俺も挑戦してみたい。



「は〜い、もうその話はおしまいにしなさい。ご飯にしますよ。あなた、迫害の話は子供にはまだ早いわよ」


「そ、そうだな。すまんすまん。あっ、それと町外れの山へは近づかないようにな。最近モンスターが頻繁に目撃されてる。近々、山向こうの磯良いそら支部とお父さんの支部とで共同作戦を行う事になってるから、それまでは大人しく家で遊んでいなさい」


「え? この町でモンスターなんか出たこと無かったのに……。それはまだ誰も知らない話なんだよね? ──俺、なんか陰口を言われてるっぽいんだよね。お父さんの話を聞いてわかったよ。きっとその家宝の刀のせいだ。みんな親からその刀の話を聞いてるんだよ。明日学校でモンスターが出る話を皆に教えてやろう! そしたら皆陰口を止めるかも。そして、ヒーローになれるかもしれない!」


 兄が馬鹿なことを言っている。



 ── 何がヒーローだよ。その、すぐに自慢したがるところが嫌いだ。──でも、お兄ちゃんも陰口を言われてたなんて知らなかったなぁ。辛い気持ちが分かるんだったら、俺のことを虐めるなよ!



 面白かった話だが、母の横槍が入り終わってしまった。


 廊下で脚を抱えて話を聞いていた俺は、おもむろに立ち上がり決意する。


 お父さんに地下に閉じ込められるといつも泣いていた俺だが、今度地下に閉じ込められた時はその家宝の刀を探し出して、持てるかどうか挑戦することを。



 その日から、隙を見つけては地下へ行って家宝の刀を探し、地下に閉じ込められるようなことをワザとして黙々と家宝の刀を探した。


 そして、10歳の誕生日がくる直前に、やっと家宝の刀を見つけることができたんだ。


「──見つけた! こんなに奥の下に置いてたのか。そりゃ家宝なんだから隠すよな。箱のまま持ってもヤバいのかな? とりあえず箱の蓋を開けてみよう……。──うわぁ〜、これが家宝の刀か……凄いや。本物の刀を見たのはこれで二回目だ。──よ、よし、さ、触ってみよう」


 刀に触れようと思った途端に、体が震え出す。生唾を飲み込みながら震える手を刀に伸ばし、そっと刀の柄に触れてみた。


「うわっ!」


 すると全身から力が抜け、その場に倒れてしまう。


「はぁはぁ、少し触っただけなのに、全力で走ったみたいに疲れた」


 父が言っていた通りだった。


「くやしいなぁ……」


 諦めきれなかった俺は、頑張って強くなってからまた挑戦しようと心に決める。




 ❑  ❑  ❑




 そして、運命の10月27日。俺の10歳の誕生日がやってきた。


 朝の9時を回ったところ。この日は6歳の誕生日の時と違って、家にお客さんは誰もいない。


 俺はリビングの隅に腰を下ろし、胸を擦っていた。


「──なんか朝からここら辺が可怪しい。胸騒ぎ? 違うな、何かをしないといけないような……なんか変だな……。緊張してるのかな?」


 すると佐山が俺の近くに寄って来てくれた。


「坊ちゃん、胸を擦ってどうしたんですか?」


「ん? ──なんかモヤモヤするんだ。上手く言えないけど、何かをしなくちゃ……みたいな。他のことより大事な何かを……」


「──モヤモヤ……ですか」


 俺が分からないのに、佐山に自分の体の状態を上手く説明出来る訳がない。


 声を掛けてくれた佐山も困っている。


 今リビングにいるのは、天に祈りを捧げている両親と冷たい表情の兄姉。

 スキル『儀式』にて、俺の職業を決定する日本UAFの桂隊員と佐山。


「それでは始めましょう」


 桂隊員の声が開始の合図となる。


「俺は、さむらいになりたいです!」


 今日は俺の職業を決定する日なので、桂隊員に俺の希望の職業を伝えた。


 だが、桂隊員は俺の話を聞くどころか、顔さえ見ない。


「あの……聞いてますか?」


「──あ、ああ。君の職業はもう巌……い、いや、なんでもない。君は黙って座っていればいい。直ぐに終わるからね」


 桂隊員のその言葉に俺は驚いた。黙って座っていろ? 父の名前を言いそうになっていたので、父がこの隊員に裏で何かを言ったのかもしれない。


 10歳といえど、職業を決めるのは個人の自由だ。

 日本UAFの隊員が本人にどんな職業がいいかを訊き、常識を外れていなければその職業に決定する。もちろん、職業は後に変更できる。


 そういうルールがあると、学校で教えてもらった。付け加えて、職業を変更するとその職業に付随するスキルも変わるとも。


 スキルにレベルがあるわけではないが、価値が上がり使い慣れることで範囲や威力が増す。新しいスキルになると習熟度がまた一からになるので、変更はあまりお勧めはしないと言っていた。


 日本UAFの隊員は父に何かを言われたから、俺に黙っていろと言ったに違いない。


 これは本来なら違法なはず。


 学校の先生が言っていたことをまた思い出した。日本UAFの隊員は皆が憧れる職業だと。


 もし、日本UAFの隊員になりたいのなら、強くなってランクを上げるか、スキルに『儀式』や、『鑑定眼』を持っていればなれると言っていた。


 その2つのスキルは、神父という職業に就けば付与されやすいらしい。

 この2つのどちらかを持っていれば、無条件で日本UAFの隊員になれる、と先生が力説していたのを覚えている。


 父は、行く末が心配な俺を日本UAFに就職させようと、裏工作をしたのかもしれない。



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