第11話「人らしからぬ人」



「はははっ、刀が一本降ってきただけだから、雨とは言い過ぎだな。──信用出来ないか? だが本当なんだ。ちゃんと日記が残ってて、お爺さんがその時の状況を事細かに書いてある」


 また声が聞こえなくなった。椅子と床が擦れる音がしたので、父が何かを取りに立ち上がったのだろうか。


 暫くすると、また父の声が聞こえてきた。


「これがその日記だ。箇条書きされてるんだが……大事なところだけを読むぞ。──ええと、ここらへんだな。──夜中に突然庭の方で轟音が聞こえた。次の日の朝外に出てみると、さやに納まった刀が庭の土に刺さっていた。その刺さり方からして、空から降ってきたのだろうと推察する」


 

 ── ほんとにそう書いてあるんだ……。なんで空から刀が降ってきたんだろう?



「お爺さんが庭の土に刺さっていた刀の柄を握ると、力が抜けたと書いてある。だが、初めだけで後はどうもない……お爺さんは凄いな」


「じゃあ、その刀を扱えた一人ってお爺さんのことなのね」



 ── これはお姉ちゃんの声だな。



「そうだ。ここからが凄いんだが、──お爺さんが庭でその刀を鞘から抜き眺めていると、この刀を見てもらおうと呼んだ従兄弟の慎二が『空から刀が降ってきただと?』と言い笑っていると人らしからぬ人が突然現れ、空から降って来たに決まってると言って、お爺さんに勝負を挑んできたらしい」



 ── 人らしからぬ人?



「ここからはさっき出てきた従兄弟の慎二という人がお爺さんの代りに書いているんだが、結果は……勝負を受けたお爺さんが負けて殺されたそうだ。──ん? おばあちゃんは大泣きし、お父さんは一つらしからぬ人をジッと見ていた、と書いてある。全く覚えていないな……。──その慎二という人が、人らしからぬ人がお爺さんを殺した後に言ったことを、お爺さんの日記の続きに書き記しているぞ」



 ── お爺さんは殺されたんだ……。



「『此奴こやつではなかったか、ちと急いだようだ。もう少し待たねばならぬな。まあ良い、楽しみはとっておこう。おい、そこの貴様。この刀は最強の矛、斬れぬ物はないと謳われている代物だ。ここに降ったという事はお前達の身内に他にも扱える者がいるか、もしくはこれから出てくる筈だ。何年先に出てくるか知らぬが、それまで家宝として大切に保管しておけ。それと、わらわも待つつもりではいるが、あまりにも遅ければ待つのを止めて全てを終わらせる』──これが人らしからぬ人が語った全容だそうだ。意味が分からないことを言って去って行ったと書かれているな」


 俺はその話を聞いて、鼓動が早くなった。もし、最強の矛を扱えるのが俺だったら、と……。


「後の報道で、この刀が降ってきた日に世界各国で地下迷宮が出現し、モンスターが現れたと知った。と、ある」



 ── 地下迷宮ってダンジョンのことだよな。確か前にお父さんがそう言ってた。刀とダンジョンに何か関係があるのかなぁ……。



「モンスターが現れた時の様子がテレビでも報道されたらしい。人は襲われ逃げ惑い、機動隊や警察が出動したが多くの人が亡くなり大惨事になった。何とか地下迷宮から出てきたモンスターを倒して、地下迷宮の出入り口を封鎖した、とある」


 凄い話を聞いてしまった。兄や姉の声は全く聞こえない。


「次にはこう書いてあるぞ。──夢を見た。夢の中で光の玉が浮かび、一方的に話を始めた。『お前達にステータスとスキルを授ける。その能力で抗え』と言って光の玉が消えた、と。政府の調べでは、地下迷宮が出現した日に全世界の人が同じ夢を見たと思われる、と」



 ── 全世界の人が同じ夢を見るなんて漫画のような話だ。

 


 父の話は続く。


「政府は大混乱に陥り、毎日国会で議論しているようすが中継された……。う〜ん、頭の良い人は凄いな、その後このステータスとスキルの謎を解明してしまうんだからな」


 俺はダンジョンが出現し、モンスターが現れた当時の様子に驚いた。


「戦争をしていた国も休戦してモンスターから国を守ったそうだ。──まあ、戦争どころではないか」


「そんなことがあったんだね……」


 兄の声が雑音に聞こえる。折角話に惹かれていたのに、黙っていてほしい。


「お父さんもこれを読んだ時は怖かった。だから、ちゃんと読んだのは今日が初めてなんだ。でもそれ以降は人らしからぬ人は現れていないと書いてある。──刀の噂が広まり、政府が家まで調べに来たとも。政府がその刀を持ち帰ろうとしたが、誰も持てなかった。道具を使っても持ち運べないので、諦めて帰ったそうだ」


「それって可怪しくない? お爺さんが負けた後に、人らしからぬ人は刀を持っていかなかったんでしょ? じゃあ、誰も持てない刀を誰が家に運んだの?」


 姉が、俺が訊きたかったことを訊いてくれた。道具でも持てない刀を一体誰が運んだのか?


「その答えは……これか。──ん? 巌上……つまり、お父さんが運んだって書いてあるな。これも全く覚えてない……。何々、人らしからぬ人が立ち去った後に、一族に声を掛け集った皆が刀に触れたが誰も持つことが出来なかった。後は5歳の巌上がんじょうだけ。皆は無理だと言ったが、長男の巌上がんじょうならもしかして持つくらいなら出来るかも、と思いやらせてみた。重たそうではあるが、抱きかかえて運んだ。とある。もしかして、巌上は選ばれた子なのかも。──なんて書いてあるぞ」



 ── お父さんは小さい頃から家宝の刀を持つことだけは出来たのか……。でも、今でも持てるだけってことは、お父さんは選ばれた人じゃないんだよな? ──なら俺にもまだ可能性がある……はずだ、よな……。



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