第10話「空から降ってきた一本の刀」
─ 栗山町にある食堂 ──
「すまんな、急に呼び出して」
「いえ、一緒に飯を食べようだなんて珍しいですね」
ここは
お昼の時間ということもあり満席で、店内はスーツを着たサラリーマン風の男や、作業服で肩にはタオルを掛けた職人風の人が大盛りのご飯を口に頬張っている。
ここ栗山町は田舎町だが、もちろん会社もあればスーパーやドラッグストア、ホームセンターに市場なども普通にある。
ガヤガヤとした雰囲気の中、
「ここのカツカレーは絶品ですね! 辛さも丁度いいし、味も最高だ」
「ああ、そうだな」
ご飯を奢ってもらえる桂は、笑顔でカツカレーにパクついている。
美味しそうに食べている桂を見て、巌上が話し出した。
「実は……頼みがあるんだが」
巌上は持っていたスプーンを皿に置き、桂隊員の顔を真っ直ぐ見た。
「んぐっんぐっ、ぷはぁ〜。辛いから水も旨いや。──頼みだなんて、どうしたんですか? え? そんな、真剣な顔で……なんです?」
巌上が桂隊員の目を見て言葉を紡ぐ。
「俺の息子なんだが……価値のこと、知ってるだろ?」
「え、ええ、まぁ、噂では……」
桂は巌上の質問に少し返事を濁らせた。
とりあえず返事はしたが、巌上の顔を見ることが出来ず、間が持たないと思ったのかスプーンいっぱいのカツカレーを口に頬張った。
「鍛えてはいるんだが、成長してるのかしてないのか……。10歳の誕生日のときに価値が0円のままなら、あの子の人生を……この手で終わらすことになるかもしれない」
話の内容に驚いた桂が、口いっぱいに頬張っていたカツカレーを吹き出したのだが、吹き出す寸前に口元にやった手がギリギリ間に合い、前に座る巌上にはかからずに済んだ。
口からこぼれ出たご飯をティッシュで拭き取り、持っていたスプーンを皿に置く。
そして真顔になり、巌上の話に耳を傾けた。
「私も親としてそんな事はしたくない。それに、このまま価値が0円ってこともないだろうしな。だが、上がっても周りの人より価値が低い事には変わりないだろう。──そこでなんだが……息子の10歳の儀式で職業を神父にしてやってくれないか?」
「ちょ、ちょっと待って下さいよ。職業は本人の口から聞かないといけないルールがあるのはご存知ですよね?」
巌上が無言で頷く。
「──いや、分かりますよ。職業を神父にして、鑑定眼か儀式のスキルを狙ってるんですよね? そうすれば日本UAFの隊員に無条件でなれる。価値が低いと就職するにも苦労する世の中ですから……。支部長の息子がプー太郎ってのは頂けませんもんね? ──ですが、その頼みが違法であることはご存知の筈では?」
巌上が桂隊員の言葉に被せ気味で話す。
「君は……もうすぐ二人目が産まれるそうだな?」
いきなりの話の転換に言葉を失う桂隊員。
「子供が産まれると何かと物入りだろ? ──もし、私の頼みを聞いてくれたら……コレをやる」
巌上が厚みのある封筒をテーブルの上に置くと、桂がその封筒に視線を落とした。
「なんですか、コレは? ──っな!」
「──一本ある。悪い条件じゃないだろ?」
桂が封筒の中を覗きながら固まってしまった。そして、封筒の中身に触れながら巌上に話す。
「巌上さん、最近羽振りがいいって噂になってますよ? ──なにか悪いことでもしてるんじゃないかって」
「ははっ、悪いことなんてしてないさ。良いことならしてるがな」
桂が封筒にやっていた視線を上げ、巌上を見た。
「そうだ、君も手伝わないか? 割のいいバイトだと思えばいい」
「──なんか、そそられるような言い方しますね。でも、手を出したらもう抜けられない……違いますか?」
「抜けられない……とは違うな。抜けたくなくなる……なら合ってると思うが」
桂が巌上の話を聞いて、コップの水を一気に飲み干した。
そこへすかさず恰幅のいいおばちゃんが。
「お兄ちゃん、お水のおかわりいるかい?」
そう言って、返事を聞かぬ間に空のコップに水を注いで立ち去っていく。
桂は、おばちゃんが注いだコップの水をジッと見つめていたが、手に持っていた封筒を上着の内ポケットへ忍ばせると。
「──俺に出来ることがあったら何でも言って下さい。俺、口硬いですから!」
桂のその返事に、巌上が口角を上げた。
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ある日、家族の団らんに入れてもらえない俺は、リビングに通じる廊下で一人座っていた。
すると、皆が楽しく話している声が俺の耳に届く。
「お父さん、家にある家宝の刀って何?」
兄の声だ。
家宝の刀があることは知っていたが、それが何なのかは俺も知らなかった。
俺は兄のその質問に答えるであろう父の声に耳を澄ませる。
「おお、そうだな……そろそろ教えてもいい頃か……」
そう声が聞こえてから無言が続き、父がようやく口を開いた。
「──家宝の刀は、お父さんが受け継いだ最強の矛だ。斬れぬ物は無いと謳われる程の代物。今は地下に置いてあるんだが、この刀を扱えた者はまだ一人しかいないらしい。もちろんその一人とは、神竜家の人間だがな。何せ、この刀を手に取り持っているだけで体力を奪われるから扱えないんだ。お父さんでも持ち運ぶくらいしか出来ないんだぞ」
「お父さんでも無理だなんて、怖い刀なんだね……」
兄は怖い刀と言っているが、俺は体が震えた。何故なら刀が大好きだからだ。
世間一般には、刀という武器は不人気だった。人気のある武器は、剣、大剣、槍など。
刀がどうして不人気なのかというと、細くてすぐに折れてしまうから。
刀は武器としてではなく、アクセサリーとして腰に飾る。そんな風潮があった。
俺は一度だけ本物の刀を見たことがある。
俺が見た刀は、黒く艶のある鞘に納められ、研ぎ澄まされた美しい刀身。武器というより、美術品のような佇まいだった。
一目惚れ。俺は一瞬で刀の虜になった。
俺を虜にさせたその刀を思い出していると、静かになっていた部屋から父の声が聞こえ出す。
「──ここまで話したなら全てを話しておこうか」
なにやら緊迫した声を出す父。俺はより一層耳を澄ませた。
「最強の矛は、お父さんのお父さん、つまりお前達のお爺さんがまだ若かった時に、空から降ってきたらしい。当時のお父さんが5歳だったらしいから、今から35年前だな」
「空から刀が降ってきたの? 雨みたいに?」
兄は父の話をあまり信用していないようだが、俺も同じだった。
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