第39話「円卓を囲む5人の男」





 ─ 日本UAF東京本部 ──






「昨日は10月27日か。『命の日』……確かに命がよく動く日だ。──杉本よ……祈りは通じなかったな」


「総理……残念ですが、起こるべくして起こったのかもしれませんな」


 伊織昌いおりあきら総理と、杉本輝之すぎもとてるゆき警察庁長官が、そう言ってため息をついた。



 栗山町に起こった惨劇に、日本UAF長官兼日本UAF東京本部長の高牧千歳たかまきちとせが緊急事態を告げ伊織総理が緊急招集し、その呼び掛けに応じた面々がこのUAF東京本部に集結している。


 円卓に座る五人の男。


 まずは、皆に緊急事態を告げた張本人、日本UAF長官兼日本UAF東京本部長の高牧千歳たかまきちとせ。その左、青い顔でテーブルをトントンと叩くこの男は日本のドンこと総理大臣の伊織昌いおりあきら。そして、強面の警察庁トップ、警察庁長官の杉本輝之すぎもとてるゆき

 その杉本と気軽に話す男前、日本UAF北海道支部支部長の葉山はやまトオル。そして最後に、民間ギルドからアクセプト社の社長こと懐金潤かいかねじゅんだ。

 

 何故支部長クラスと会社の社長がこのメンバーの中に入っているかというと、アクセプト社は民間で作られたギルドで、日本UAFとは繋がりがある。日本UAFと比べると小規模だが、社員全員が冒険者で機動力に長け、作戦遂行には欠かせない存在感だからだ。緊急事態にはよく駆り出されている。


 そして、日本UAF北海道支部の支部長こと葉山はやまトオルは、日本唯一のU級冒険者。その存在感は半端ではないが、ゆるい性格が故に強いという事実を忘れさせる。


 このメンバーが集まる時は、日本にとって危機的状況である時、日本国内で危機的な何かが起こった時である。

 では、日本の危機なのに何故こんなに少人数しかいないのか? それは、各組織のトップ同士が意見を交わせば、自ずと答えが出てくるから。


 トップに立つということは人を纏める力、判断力、行動力、結果を出す能力、そして運。どれもが優れていないと、そこに立つことは叶わない。そして、誰もが小規模ではなく巨大組織のトップとくれば、他に何人集まり意見を出そうが、その人達の意見には到底及ばない。


 従ってこの人数で十分事足りる。


 北海道支部の支部長である葉山はやまトオルがこの場にいる理由は、皆が出した案を実行出来るかどうかの判断を任されているから。

 U級の葉山はやまトオルに出来ないなら、誰にも出来ない。


 スキル云々は関係ない。

 その作戦に必要なスキルの持主が出来ないと判断しても、葉山はやまトオルが出来ると判断すれば、そのスキルの持主を自分の手足のように扱い難なく成し遂げてしまう。



 伊織昌いおりあきら総理が口を開いた。


「高牧、栗山町が壊滅したとはどういう事だ? 訳が分からないが、一応報道協定では物足らない気がして報道規制もかけておいたが……」


 招集理由が栗山町壊滅の件なのだが、みんな一様に理解出来ないでいた。


 高牧長官が報告を受けた詳細を説明する。


「報道規制ありがとうございます。磯良支部の河井支部長によると、ヘリで上空から見た感じでは、潰れた家や燃えている家はあるが、武器で破壊された感じではないと。爆弾を投下させた形跡もない……とのことです。生存者はゼロだろうと。理由は外に出ている人は皆倒れていて、生きて歩いている日とは皆無だから……だと言っておりました」


「町が一晩で壊滅か……。その件と関連性があるかどうかは分からんが、民間から通報があった。栗山町に通じる一本の道路が崖崩れや地割れなどにより寸断されているらしい」


 強面の杉本警察庁長官が眉間にシワを寄せてそう言った。


「──町の壊滅と道路の寸断。関連性は分からないと言ってましたが、この二つには繋がりがあると思ってるんじゃ?」


 北海道支部長の葉山はやまトオルのこの質問に杉本警察庁長官が答える。


「事実を並べるぞ。今回の出来事の前後は分からないが、栗山町に出入り出来る一本しかない道路が寸断された。そして栗山町が壊滅した……。この二つは紛れもない事実だ。この事実から推測されることは、道路の寸断は人為的、もしくは頭脳を持った生物の仕業。町の壊滅は状況から察するに、恐らくモンスターの仕業だろうとワシは判断する」


「杉本さんの言うようにモンスターの仕業と考えるのが妥当でしょうな。となると、町を壊滅させた方法は、ダンジョンが出現した当時のように、大多数のモンスターが暴れ回った……という事でしょうかな?」


 そう言いきるのは、アクセプト社社長の懐金潤かいかねじゅんだ。懐金潤かいかねじゅんの言葉に、高牧千歳たかまきちとせが付け足す。


「栗山町を壊滅させたのはモンスターで間違いないだろうが、どうやってそうなったか……より、まずは被害を拡大させない方法を考えよう」


 葉山はやまトオルが言う。


「杉本さんの推測が当たっていれば、恐ろしいですね。人だとしても、何らかの生物だとしても脅威に他なりませんよ。──まぁ、人ならまだ対処のしようがあるかもですが、頭脳を持った生物となると……話が未知過ぎて、情報のない現状では手の打ちようがない……」


 この言葉に、皆が一様に黙ってしまった。


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