第38話「俺達は仲間じゃないのか?」




 ✡ 貴史たかし視点






 長い自転車の旅? を終え京子の家に着くと、自転車から荷物を一つずつ下ろした。


 両ハンドルに二つずつ、前カゴと後ろの荷台に載せれるだけの鞄を載せて紐で括っている。


「はぁ〜、疲れた……。筋肉が無さ過ぎてバランスをとるのに一苦労だ。──う〜っ」


 と、伸びをしながら上を向くと、京子の家の屋根にアンテナが見えた。



 ── なんのアンテナかな? 有料放送? ああいうのは詳しくないから分からないや……って、そんなこと言ってると、また京子に「10歳だもんね」って言われるな……。それは嫌だからアンテナのことは聞かずに黙っとこ。

 


「ただいま~」


 大荷物を持って京子の家に入ると、京子が満面の笑みで迎えてくれる。


貴史たっくんおかえり! ──凄い荷物ね……」


「ここで生活するから必要そうなもの全部持ってきたんだ。──えっ?」


 満面の笑みだと思っていたが、京子の顔をよく見ると目が真っ赤で腫れぼったく、どう見ても泣いた後の顔をしている。


「京子……何があったんだよ」


「……」


「黙ってちゃ分からないだろ? 俺達は仲間じゃないのか?」


 その俺の一言に、手で顔を覆い大泣きしだした。


「え〜ん、うぇ〜ん。やっぱり……死んで、たの……。え〜ん」


「死んでたって……もしかして、グラウンドに行って来たのか?」


 京子が泣きながら頷く。



 ── そうか……あの惨状を見てしまったんだな。人が重なって黒く焼けたあの光景を……。あの中に京子の両親がいたのか。でも、あの状態で自分の親だって、どうやって見分けたんだろう?



 そのことは聞くに聞けず、ある提案をすることに。


「俺さぁ、さっき自分の家を燃やしてきたんだよ」


 京子が声を出して泣いていたのを急に止めて、俺の顔を見た。止めたといっても、もちろん嗚咽を漏らしてはいるが。


「家を燃やしたって……ぐすっ、どういうこと? んっぐすっ」


「そのままだよ。俺の家には両親と兄と姉、家庭教師に世話人のじーじ、あと使用人がいたんだけど、みんなもう息は無い。もうあの家には帰ることもないし、お葬式だって出来ないだろ? だから、火葬の代りに家を丸ごと燃やしてきたんだ」


 京子は俺の話を聞きながら何度も涙を拭う。


「グラウンドで両親を見つけたんだろ? だったらここまで連れて帰って、庭に埋めてあげようよ」


 俺の提案に、目を丸くし驚く京子。やっと涙が止まったようだ。


「え? でも、そんなことするの大変よ?」


「京子が泣いてるんだ。俺は京子の為ならなんでもする。だから、大変でもそうしてあげようよ」


 京子がまた口角を下げて泣き出した。


「ひんっ、ひんっ。貴史たっくん、あり、がとう。私もそうし、てあげたい……」


 京子の肩に手を置き「うん」と、返事を返した。


 そうと決まればすぐにでも……と思ったが、もうお昼を回っていたので腹ごしらえをすることに。


 食事をしながら京子のスキル『情報漏洩』で、台車のことを調べてもらった。


「あっ、それがいいな」


「そうね、このカゴ台車っていうやつなら、二人同時に運べそうだわ。──でもこの台車って……なんか見たことあるよね?」


「「あっ!?」」


 俺と京子の声が重なった。


「「近くのホームセンター!」」


 また重なる。


 京子の家の近くに、ホームセンターがある。さっきそこの前を通ってここにに帰ってきた。

 その時に、商品か何かを載せていたその台車が外に出ていたのを見た。


 お昼を食べ終わると二人で早速近くのホームセンターへ行き、見つけた台車とスコップを拝借。


「どこにいっても無茶苦茶になってるな」


 町はソンビ映画を撮影されても違和感がない程荒れており、倒れている人がその雰囲気をより演出していた。


「スーパーに行けば、沢山の食料があるだろうから当分の間は困らなそうだな」


「どういうこと?」


「どうゆうことって、持って帰って食べるんだよ」


 京子の眉間にシワができ、口を窄めている。


「それって犯罪よ! だから駄目!」


「非常事態なんだから、別にいいじゃないか」


「駄目! 犯罪は駄目なの。そんなことしなくても、家は田んぼもあるし山で狩りをすれば生きていけるわよ」


 サバイバル女子だ。


 でも、京子の言い分はごもっともなので、素直に謝ることにした。


「ゴメンナサイ」


「素直でよろしい、許してあげる。──なんてね、ふふっ」


 京子も明るさを取り戻してくれたようだ。


「私、思ったんだけどね。栗山町に配達に来る人だったり、人を訪ねて来る人だっていると思うの」


「あっ! 確かにそうだよ。全然気付かなかった……。そりゃお店だって潰れてるんだから、商品を配達する人とかが気付くはずだ」


「そうなのよ。でも、もうお昼も回ってるのに人の気配が全然しないでしょ?」


 ここには俺達の他に人はいない。

 だけど、町全体となるとどこかに人がいるかもしれない。UAFのヘリコプターが飛んでたくらいなので、助けにくるのも時間の問題か。


「とにかく京子の両親を家に連れて帰って埋めてあげよう」


 俺の言葉に京子が頷いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る