第15話「家族との別れ」
─ 神竜夫妻の寝室 ──
「里見、大丈夫か?」
「ごめんなさい、気絶なんかしちゃって。
──心配してもらって悪いけど、大丈夫じゃないわ。あんな子が私の子供だなんて……」
里見をベッドに寝かせた状態で、巌上はその傍らでベッドに腰を下ろしている。
2人は大きく息を吐いた。
期待半分……いや、微量とはいえ、祈りながら迎えた
儀式の前のステータス開示で心を折られた神竜夫妻。
里見が、開示された
「──ああ、まさか価値が上がってないなど思いもしなかった。いや、思ってなかった事は無いが、1円も上がらないとはな……。──ん? なんか、騒がしいな」
「──ほんとね。また智也と光が
里見のその言葉に、また二人で大きな息を吐いた。
「それにしても、今回は凄い暴れようだな」
「た、確かにそうよね? ──え? 何、今の。アレって獣の声じゃない?」
巌上が眉を潜め立ち上がる。
「──可怪しいな。ダンジョンの中にいる時に聞く声だ……」
「あ、あなた、智也と光が心配だわ」
巌上が、寝転んだ状態で心配している里見の手に軽く触れると、寝室にも飾ってあった宝石入の剣を手に取った。
「里見は寝てろ」
そう言って、ドアへ向かうとゆっくりとドアノブを回し、廊下を窺いながらゆっくりとドアを引いて開けようとしたその時。
「お父さーん! 助けてーー!」
「いやーー! お兄ちゃん怖いよーー!」
「グウォーー!」
巌上の耳にただならぬ子供の叫び声と、モンスターの唸り声が届いた。
「智也! 光ーー! 今行くぞ!」
巌上が子供の名を叫びながら、ゆっくり開けようとしていたドアを力まかせに引いて開けようとした途端、廊下側からドアを破壊する程の勢いで開けられた。
「なっ!」
巌上の顔の前を通り過ぎるドア。
向こうにいたのはモンスター。
「きゃーー!」
「なっ! 何でモンスターが家の中に……くそっ」
里見はモンスターを見て叫び、巌上は驚き後退してしまう。
巌上の目の前に現れたモンスターが、部屋の中に入り襲って来た。
「せいやっ!」
先程の獣の声に危険を察知し、巌上の手には剣が握られている。
モンスターとの戦いに慣れたA級冒険者の巌上は、この事態に怯む事なく素早く剣を振り下ろす。
「ガアァァーー……」
「邪魔をしやがって! 今行くぞー!」
巌上はモンスターを倒すと、急いで子供部屋へと向う。
「うわあぁぁん!」
「いやいやいやいや!」
子供部屋のドアは開いており、中へ飛び込む巌上。
「大丈夫かー! お父さんが来たぞ!」
そう叫んだ巌上の眼の前で。
「お、お父……ガフッ……」
「ぐぎゃっ……」
智也と光が大きなモンスターに踏み潰された。
「グオォォオオーー!!」
「そ、そんな! クソっ、俺の俺の可愛い子供達を……ミノタウロスぅぅーーうわあぁぁーー!」
最愛の息子と娘を眼の前で殺され、怒りに任せて剣を振り上げすぐさま振り下ろす。
「何!? き、消えた……」
振り下ろした剣がモンスターを捉えることはなかった。
一瞬動きが止まった巌上だが、モンスターの気配を頭上に感じたのだろう、上を見ることなく素早くその場を離れようと、走るというよりその場から飛んで回避しようとしていた。
その行動も虚しく、大きな岩を落としたような音と、生物を踏み潰した時のグチャッという嫌な音が同時に響いた。
その音と時を同じくし、巌上も言葉にならない声を上げたが、それ以上声を発することはない。
隣の夫婦の寝室では。
「グウォーー!」
「きゃーー! あなたーー! 戻ってきてーー!! いやっ、声が聞こえない! 駄目! はっ、はっ、や、止めて! こないで! はぁはぁ、み、皆死んだの? はぁはぁ、モ、モンスターに殺されるくらいなら……た、短剣で……お母さんも連れて行って!! ──ぐっ!」
里見は巨大なモンスターを前にし、死んだかどうかも分からない家族を想い涙を流し、短剣で自分の胸を刺した。
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佐山に促され地下室に入ってから呆然と家宝の刀を眺めていると、上階で走り回る足音が聞こえてくる。
「──ん? なんだろう。お兄ちゃんとお姉ちゃんが走り回ってるのかな? ──それにしては足音が多いような……」
何事かと思い、階段を上がってドアノブに手を掛けた。が、聞き慣れない声が聞こえた気がして開けるのを
ドアノブから手を離しドアの前で耳を澄ませると、向こうから騒がしい声が聞こてきた。
ドアが分厚いせいかよく聞こえないので、ドアに耳を当ててみる。
すると、騒がしいというよりは喚き声や悲鳴、怒声や物が壊れる音が響いているのだと認識した。
普通ではない事が起こっていることに気づき怖くなってきたが、恐怖よりも好奇心が上回る。何が起きたのかを確かめようとゆっくりとドアノブを回し押してみた。
「あれ? ドアが開かない……」
入る時はすんなりと開いたドアが、力を入れて押しても開かない。
可怪しいと思い鍵穴から向こう側の様子を覗いてみると、使用人がドアの前に倒れているのが見える。
その使用人の足が邪魔をしてドアが開かないようだ。
── どうして人が家の中で倒れてしるんだ?
不思議に思い、暫く鍵穴を覗いていると影が視界に入った。その影が段々と大きくなり、影の主が現れる。
「──も、モンスター?」
家の中にモンスターがいる。
モンスター? あり得ない。
俺は怖くなり、声を出さないように口を手で塞ぎ、ドアに背を預けてその場に座り込んだ。
「んぐ……」
口の中に唾が溜まってくる。それを一度に飲み込むが、緊張のせいか胸が苦しかった。
次の瞬間、悲鳴と共に俺がもたれ掛かっていたドアに何かがぶつかる。
「わぁっ!」
── はっ! 声を出しちゃった。
咄嗟に口を塞いだが、声が出た後なので意味がないことに気付く。
そして、ここにいることを気付かれたかもしれないと、恐る恐る鍵穴を覗いた。
すると、黒い物体が穴を塞いで何も見えなくなっている。
よく見てみると髪の毛だということが分かった。
恐らく、さっきのモンスターに襲われた誰かがドアにぶつかり、顔を上げて座ったまま命を落したのか?
怖くて震えが止まらない。
家の中にモンスターがいて、人を殺しているであろう事に。
「──な、何がどうなってるんだよ?」
体の震えが止まらず、さっきまで飲み込まないと溢れそうだった唾液が、今度は全く出なくなり口が乾く。
「さ、佐山がお腹がペコペコになるまで地下から出るなって言ってたけど……」
頼れる人は誰もいない状況に、佐山との約束を守る為に黙って音を立てずに時が過ぎるのを待った。
どれくらいの時間をそこで過ごしただろうか。やがて、声も物音も聞こえなくなる。
しかし、恐怖心が晴れることはない。
声も出せず足は震えている状況。
そんな状況なのに、人は空腹には耐えられないらしい。
お腹の虫が鳴り出すと止まる気配がない。
── こんな時でもお腹は空くんだ……。
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