第16話「俺は強くならないといけないんだ」


 とにかくこの地下室から出ないことには何も始まらない。震える足を叩き、勇気を出して立ち上がった。


「──よ、よし。佐山に言われた通り、お腹もペコペコになった。とにかくここから出ないと」


 ドアノブを回し、ドアを力一杯押すがびくともしない。



 ── 動かないや。ドアを叩いてみようかな? でも、もしまだモンスターがいたら……ここに居るのがバレて殺されちゃうかも……。う〜、どうしよ〜。──もうお腹が限界なのに決められない……。



 決められないとも言ってられない。もうお腹が空き過ぎて我慢の限界に達し、俺は意を決してドアを叩くことにした。


「お〜い! 誰がここを開けて〜!」


 必死にドアを叩いた。


 さっきまで叩く事を躊躇していた筈なのに、一度叩き出すと止まらない。

 叩くだけじゃ収まらなくなり、大声を張り上げ何度も何度もドアを叩いた。


「くそ〜、誰も来てくれないや。お兄ちゃんかお姉ちゃんがいれば、笑いながらバカにしてくる筈だよな〜。──もしかして、モンスターにやられちゃったのかな?」


 どうすればここから出られるのかを、俺は必死に考えた。

 考えてはみたが、まずは出られる方法を考える前に、自分が置かれている状況を考えてみることに。


 今居るのは一階の地下室へ出入りする、地下室側のドアの前。そして、階段の下は地下室なので窓はない。


 地下室に通気孔はあるが、体が大きくなった俺には通れない。

 この地下室は書庫兼物置きになっているが、家宝の刀を探し回っていた時に扉を壊せるような道具は無かった。


 それ以上何も出てこず八方塞がりの中、あることを忘れていたことに気付く。



 ── 道具じゃなくて、武器ならあるじゃないか! 家宝の刀なら分厚いドアも斬れる筈だ。



 いつもなら考えないようなことが頭に浮かんだ。自分の口から武器なんて単語を使った覚えもないし、それを使うなどなかったから。


 この前は持てもしなかった家宝の刀。だが、ここを出る方法が家宝の刀を頼る以外に無い以上、もう一度挑戦するしかない。


 価値が0円の俺に、日本UAFの桂隊員が言った。君のステータスは神の悪戯いたずらだと。

 この際、家宝の刀を持つことが出来れば、俺のステータスが神の悪戯いたずらだろうが何だっていい。

 それに、この前家宝の刀に触れた時とは少し状況が違うのは確かだ。


 どういった意味があるのかは知らないが、俺の職業は『神』になっている。10歳の誕生日前の無職の状態と、誕生日に判明した職業が『神』とでは明らかに違う。


 職業が『神』になったといっても、俺の中では何も変わっていないが……。

 変わっていないけど、朝から何か変ではある……。


 それでも『神』に賭けて試してみる価値はある筈。


 前に家宝の刀を触った時とは違うんだと、今なら持てるんだと心に言い聞かせた。


 このままだとお腹が空き過ぎて、餓死しちゃうんじゃないかと真剣に思っている。どうせ死ぬなら大好きな刀に命を吸い取られて死ぬ方がいい。


 そんな事を思いながら、家宝の刀を目指して階段を下り走って行った。


「す〜……はぁ〜……す〜……ふ〜〜っ」

 

 家宝の刀の前に立ち、大きく深呼吸して気持ちを落ち着かせ、勇気を奮い立たせる。

 この前は触っただけだが、今日は思い切って家宝の刀を握ってやろうと思った。


「よし……握るぞ! ──俺を認めてくれ!!」


 目をギュッと閉じて力を入れようと思っていたが、逆にこれでもかと目を開き歯を食いしばっている自分がいた。


「んぎぎっ!」


 暫く息を止めて思いっきり柄を握っていたが、何も起きない……と思った瞬間。



 ── く、苦しい!



 苦しくなって倒れそうになった。


 

 ── くそっ! やっぱり俺には無理なのか……。



 そう思いながら止めていた呼吸を急いで再開すると、苦しさが無くなっていく。


「はぁ、はぁ、ん? 楽になったぞ? ──息を止めていたから苦しかったのか?」


 そう思うと自分がしたことなのに、笑いが込み上げてきた。


「はははっ、俺って間抜けだな。息を止めてたんだから苦しくて当たり前か」


 この前は触れただけで体の力が抜け尻餅を付いたので、今回は握っていたのせいで苦しくなったと勘違いしてしまった。


 もしこの前と同じように体力を奪われているとしたら、今回は結構長く握り締めているのだから、もうとっくに命を落としていても不思議ではないだろう。


「これって、俺はこの刀に認められたってことなのかな?」


 刀を握り締めたまま立ち上がり、振り回してみたが体に異変はない。


 『神』という職業のお陰だろうか? 他に思いつかないし、そうとしか思えない。


「刀を持てたのは素直に嬉しいけど、そうだよ、俺は……強くなりたい! 朝から何かをしないとって思ってたのはコレだ! 刀を握ってハッキリとしたぞ。俺は強くならないといけないんだ」


 刀を持てた要因を考えたところで、確かな答えが見つかる訳もない。別に答えを知る必要もないだろう。

 今までに一人しか扱えなかったという刀を、俺が扱えている事実は変わらないから。


 本当なら飛んで喜ぶところだが、死ぬ程お腹が空いているのでそれどころではない。


 俺は刀を握り締めた状態で階段を駆け上がった。


 そして、ドアの前に立ち刀を抜刀する。


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